2004年07月の思いつき


市場の信認

企業であれ、国であれ、金融資本市場で資金を調達しているものにとって、一番怖いのは市場の信認を失うことです。

1998年のロシア危機においてロシア政府の発行する債券は一旦市場の信認を失いかけました。その後債券を保有する金融機関との長い交渉と、ロシア政府と企業の経済回復への努力、そして原油高というプレゼントによって、ロシアという国がなんとか資本市場に復帰できると見られていた矢先に勃発したのがプーチン政権と大手石油会社ユコスとの係争です。
実際なにがあったのか、どちらが悪いのか、定かではありません。ただ一つ言えることは、今回のユコス危機で被害を被ったのは、ユコスのオーナーではなく世界中にいるユコスの株主であるということです。
プーチン政権は、ユコス問題が政権との個人的確執で生じたという噂について、納得の出来る説明をしなければなりません。
でなければ、ロシア経済が資本市場の正式な参加者として認知されるのは、はるか先の話になってしまうでしょう。

(2004.07.30)


運用に興味ありますか?

四半期報告会というのは、確かに前四半期末(今であれば6月末)までの状況を報告するものです。でも報告時期が7月末なのであれば、その後の状況を口頭ででも併せて説明するのは当然でしょう。
特に今月のように大きく市場が動いたような場合や、新聞紙上で話題になっている企業の株式や債券を保有している場合などは6月末での評価の話より、今どうなっているのか方がよほど重要であるということは、言うまでもないことです。
にもかかわらず、状況を全く把握せず四半期報告にいらっしゃる運用会社の方は、そもそも運用に興味がないのでしょうか。
顧客資産を預かっているということの意味を考え直して欲しいと思うことの多い、今四半期報告です。

(2004.07.29)


宙ぶらりん

信託銀行の合併が二転三転することで、困っているのは当の信託だけではありません。
信託銀行が請け負っている、年金支払い業務や数理計算業務は年金事務の根幹をなすものです。
また、掛け金や給付の改正など制度設計に関わる業務にも総幹事信託は深く関わっています。
運用機関のように、パフォーマンス次第で入れ替える、というわけにいかないだけに、信託再編の混乱は、年金事務局に現状かなりのストレスになっています。
こうした状況が長期化するようなら、年金事務局は信託銀行・総幹事からの自立を真剣に考えざるを得なくなるでしょう。

信託銀行の規模の拡大戦略が信託銀行と年金事務局との間に、かえって溝を作っているようにも思えます。

(2004.07.28)


相手の立場にたって

ロング-ショート戦略の運用報告で、
「ロング(買い持ち)のポートフォリオがこれだけ益となり、ショート(売りもち)のポートフォリオがこれだけの損となりました。」と言ったら、
「損をするポートフォリオを何故待つのか?!」と怒られた…といった類の話は、運用機関から沢山聞きます。
当たり前のことを説明しているのに何がいけないのか?という運用機関の言い分もわかるのですが、スポンサーから怒られる運用報告に共通しているのは、運用報告が自己主張の場になってしまっていることなのではないかと感じます。
スポンサー、特に基金事務局は、運用会社から受けた報告や資料を基に、経営者や受益者に運用状況を説明しなければいけない立場にあります。その立場を理解した上での運用報告をしている運用機関と、一方的に自分たちの投資行動を説明するだけのの運用機関とは、報告内容や言葉の使い方がおのずと変ってきます。
"スポンサーにやさしい"運用報告、をお願いできればと思います。

(2004.07.27)


OECD勧告

OECDが先日発表した企業年金制度に関する勧告は、これからの社会保障制度における企業年金の役割の重要性を改めて指摘しています。
企業年金というものが個別企業による任意のベネフィットプランではなく、世界的な労働市場における共通の制度と位置づけよううとする意図が感じられます。
ヨーロッパ圏内やアメリカ大陸内での労働者人口の流動化が拡大していく中で、当然出てきた方向性であるといえますが、これまで国内の労働市場にしか目を向けていなかった日本の企業年金制度においては、非常にハードルの高い勧告に映るかもしれません。
現地採用の職員に対しての企業年金制度という大きな課題にも、日本企業は対処していかなければならなくなるでしょう。
グローバリゼーションの波は、年金制度の根幹もまた大きく変えようとしているのです。

(2004.07.26)


米国のIT産業

久しぶりに、NYダウがが10,000ドルの大台を割りました。
足元の景気の底堅さとは裏腹に、将来の業績予想に厳しい数字が出てきていることが投資家心理を後退させているようです。
特に、大きく下げている業種に、米国のソフトウェア会社があります。7月に入っての下げ幅が30%を超えるような企業も多発しています。
景気拡大に伴って見込まれていた企業のIT投資額が、予想を大きく下回ってきていることが主因です。
ITバブルの心理的後遺症、と言っている人もいるようですが、IT元年の99年から5年が経ち、インフラとしてのITの初期導入が産業界全体でみてとりあえず終了した、という側面も強いのではないかと感じます。
ソフトウェア産業の減速と株価の調整は、IT関連業種がようやく創成期を終え、安定した成熟期への転換点に差し掛かっていることを示しているのかもしれません。

(2004.07.23)


運用報告を聞くときのコツ

四半期ごとに行われる運用機関とのミーティングを苦痛に感じているスポンサーの方は少なくなさそうです。
苦痛に感じる理由の一つには、報告文章を読み上げるだけ、といった運用会社サイドの報告様式にも問題はあるのですが、それでもせっかく1時間近くの時間を割くのであれば、やはり少しでも有意義にすごす工夫をしたいものです。

そこで、一番簡単なコツを一つ。
報告を聞く際に、前回の四半期報告会の資料を手元に置いておくこと。
または、新規採用の会社であれば採用前のプレゼンテーション資料を眺めながら、運用報告を聞くこと。

四半期を「過ぎてしまった点」として捕らえるのではなく、過去から未来へ続く線、としてみるだけで、話の聞き方がずいぶん変ってきます。
つじつまの合わない説明をする運用機関に対するプレッシャーにもなりますし…ね。

(2004.07.22)


為替について

昨日東京で第3回年金セミナーを開催させていただきました。39.5度という酷暑の中、ご参加いただいたスポンサーの皆様、本当にありがとうございました。

第二部は「為替オーバーレイ」をテーマにお話いたしました。今回はどの手法や運用会社の為替オーバーレイがよいか、という話ではなく、為替オーバーレイという手法を取り入れる前に、スポンサーとしてまず決めなければいけないこと、理解しなければいけないことを整理することを目的とした内容とさせていただきました。
①何故国際分散投資をするのか②国際分散投資と切り離せない「通貨」はリスクなのか、収益を生み出す資産なのか③ポートフォリオ全体の中で「通貨」エクスポージャーは何割が適当であるのか④「通貨」エクスポージャーの調節方法としてオーバーレイマネージャーの採用が本当に最適な方法なのか。等等。
なんだか難しい、という感想が一番多かったのですが…
難しい、ということが判っていただければよかったのかなぁと思ったりもしています。続きは後日また次の機会に。

(2004.07.21)


戦略の集中化

米国の資産運用残高で、パッシブやエンハンストに強いインデックス系の運用会社が2003年に初めてTOPシェアとなった、と業界誌が報じています。
インデックスハウスがこれまでのようなパッシブ運用だけでなく、エンハンストやカレンシーオーバレイなどのアクティブ運用に力を入れてきたことが、残高を伸ばす要因になっているのではないかと分析されているようです。

ただ、これらの会社に共通していることは、パッシブもアクティブも基本的な投資哲学やエンジンは原則として一つであるという点です。
日本の信託銀行のように、パッシブに代表されるクオンタティブなファンドとジャッジメンタルのアクティブファンドとを並列に走らせている会社は、あまり多くありません。
運用会社としての戦略とリソースの集中化が、今後の運用業界の一つの鍵となるかもしれません。

(2004.07.20)


女性の雇用

世界の企業経営者が今ひそかに頭を悩ませていることに、女性の雇用問題があります。
米国の大手証券会社が女性の雇用差別で高額の和解金の支払いに応じたとの報道は記憶に新しいことと思います。
社内に「女性の職場環境に関わる調査委員会」を設置したり、数値目標を決めて女性管理職の登用数を意識的に増やしたり、との動きが、この一年非常に活発に行われるようになっているようです。
背景には、上記のような訴訟リスクだけでなく、社会的責任行動(CSR)のチェック項目に、性差別のない雇用政策が盛り込まれている影響も強いようです。

国連は15日、2004年版の「人間開発報告書」を発表しました。この中の「女性の社会進出」というカテゴリーで、日本は5項目中4項目で厳しい結果となっています。
日本企業が国際市場で評価される企業となるためにやるべきことは、リストラ以外にもまだ沢山あるということです。

(2004.07.16)


影が薄い信託銀行ビジネス

三菱東京とUFJグループとの合併は、ウオールストリートジャーナルのメールサービスで号外が配信されるほど、世界的にも衝撃的なものだったようです。
長らく、世界の金融地図から外れていた日本の金融機関が晴れて表舞台に復帰する準備が整った、ということでしょうか。
もちろん、本格復帰するにはかなりの道のりがあることは、自他共に認めるところでしょうが、大きな一歩となることは間違いないでしょう。

それにしても、「信託銀行」の影が薄いですね。
金融ビジネスモデルの中で、日本の信託銀行というのは少し中途半端な印象が拭えないのでしょう。
今回の合併騒動が信託銀行ビジネスの方向性と存在意義を考え直すよい機会となることを期待します。

(2004.07.15)


日銀総裁「新紙幣発行後も現在のお札は有効」と…

びっくりしました。
日銀が新札発行後の旧札の流通をわざわざ宣言しなければいけない程、妙な噂が広まっていたのですね。

戦前戦後の通貨政策の勉強をするのなら、政治の圧力に屈しハイパーインフレを招いたドイツのブンデスバンクの悲しい歴史とその後の強固な決意についても学びましょう。

年金、国債、とうとうお札。最近「紙くずになるぞ」論が、ブームのようです。
国家に対しての「風説の流布」は、犯罪ではないのですか?

(2004.07.14)


日本版SEC

米国では、SEC登録が義務付けられることになり、ファンドを閉めて業界から逃げ出したヘッジファンドが少なくないとの噂も漏れ伝わってきます。
オフショアのヘッジファンド業界がマネーロンダリングの温床になっているとの、疑いを晴らすためにも、ヘッジファンドのSEC登録は今後の業界の発展にとって、よい傾向なのでしょう。

さて、日本版SEC(を目指す?)の証券取引等監視委員会がようやく投信や投資顧問、投資組合などを監督対象に入れることになりました。
資産運用業界の自由化が進み、異業種参入も加速する中で、事故を未然に防ぐ取締官の存在は不可欠です。
法令順守と投資家保護の精神を持ち合わせていない、ファンド会社は、今の内に身辺整理をしておいたほうがよさそうです。

(2004.07.13)


センキョよりシンジョー

などと言ったら、叱られるでしょうか。

底なしの経済不況にようやく出口が見え始めた今、この数年リーダーシップを発揮してきた政治家や経営者達の言動が、少し傲慢な印象を与えるようになってきています。
危機的状況からの脱出に必要であった、TOPダウン的な意思決定方式は、日常が戻る過程においては民意の反発を招きます。
一番苦しい時期を乗り切れた、という自負が、自らの政治手腕や経営手腕の過剰評価に繋がっている部分もあるのでしょう。

たかが選手、たかが経営者、たかがオーナー、たかが政治家、です。どんなに立派な実績があっても、最終消費者たる大衆からの支持なくしては成り立たない。こんなあたり前な基本を、一番判りやすく示してくれたのは、選挙速報ではなく、ホームベースの上で手足をバタバタさせて喜んでいたシンジョーだった様に思うのです。

(2004.07.12)


ショートバイパス

このコラムでも何度も触れていますが、伝統的資産以外の商品を伝統的資産の「代替」として、営業するのは止めましょう。

これは基金スポンサーにとってだけでなく、運用会社自らにとってよい結果を生まないと思うからです。
仮に、ファンドオブファンズを国内債券の代替とすることがスポンサーの意向であったとしましょう。
その意向の裏に潜んでいるのは、「ファンドオブファンズ、ひいてはオルタナティブの採用についてのコンセンサスを組織内で取ることは難しいが、債券に混ぜてしまえば大丈夫」という、非常に安易な迂回路です。
もし、そのオルタナティブ運用が、国内債券と非常に悪い方向に乖離した場合、説明責任を負うのはそのショートバイパスに相乗りした運用会社自身です。そしてその商品そのものが悪いわけではなくとも、「結果として債券代替の役割を果たさなかった」非を、その商品が負う事になるのです。
自らの提供する商品を大切に思い、それを育てる意思があるのであれば、下手な迂回をさせず、正面玄関から堂々と入るべきではないでしょうか。

(2004.07.09)


行政監査の専門化

直接お目にかかることはありませんが、年金基金に入る行政監査の質のレベルアップが必要なのではないかと思うことがよくあります。
金融庁が行う金融機関への監査には、この数年金融の実務経験が豊富な専門の検査官が当たるようになっています。
デリバティブ市場が拡大し、複雑な金融取引が増える中、これまでのようなマニュアルに基づいた一律的な指導では意味がないし、また金融機関の実態を把握することすらできなくなっているからです。
金融機関ほどではないにせよ、年金運用の世界も高度な金融技術とは無縁ではなくなってきています。基金の健全性や財務の安定性を監査する担当者にもそれなりの知識が求められる時代となっていると思います。
時代遅れの監査は、基金の潜在リスクが把握できないばかりでなく、基金の効率的な運営の阻害要因にもなります。

(2004.07.08)


日本が悲しい

なんだか最近日本人が嫌いになりそう…です。
もちろん自分も含めてですけど。

一昔前の村八分とか、井戸端会議とか、を国を挙げて行っているように見えるのです。

政治家と官僚と企業と国民というセクターがバラバラに機能して、お互い自分のことしか考えてない。徳川幕府末期の江戸時代みたいです。
鬱憤や正義感のはけ口が、ハイエナのように特定の手負いの獣に向かう、というのも大変見苦しい。

どうしてこんな風になってしまったのでしょう。
最近、新聞もテレビもあまり見なくなりました。

(2004.07.07)


ディレクション

ヘッジファンド業界全体の方向性として、市場の方向性のリスクを取る手法(ディレクショントレーディング)が増えてきているように感じます。
例えば、株式のロング―ショートであれば、相場の上下には左右されない市場中立型ではなく、市場の上下をある程度は取りに行くタイプのものが注目されています。
理由の一つは、この1年で米国株式市場に非常に大量の市場中立型資金が流入したため、純粋に個別銘柄選択だけでとれるアルファが枯渇してきたということが上げられるでしょう。
また一方で、石油や一般商品市場の堅調さが当面続くとの見方が強まる中で、世界的なディスインフレの終焉という、大きなターニングポイントに収益機会を見出そうとするファンドマネージャーが増えてきているというのも、ディレクション運用へのニーズを高めている一因かもしれません。

だからといって、日本の年金スポンサーの方々も一緒に傾いていく必要があるかどうかは、また別の話です。

(2004.07.06)


結果としての雇用者数、原因としての雇用者数

先週末に発表された米国の雇用統計は、市場の予想を大きく下回るものでした。
日本では、ずいぶん以前から問題にされていることですが、企業の生産拠点の海外移転が国内の雇用に与える影響が、米国でも指摘されるようになってきています。
サービス産業比率が日本よりも構造的に高い米国社会では、IT化や工場の海外移転と雇用者数との関係は日本ほど強くないと理解されていました。しかし最近では雇用者数の減少が国内消費の低迷を引き起こす懸念が強まっており、国内の雇用維持は今度の大統領選での大きな争点の一つとなっています。
雇用統計が景気動向の結果ではなく、景気動向を左右する原因として、注目されています。

(2004.07.05)


リスク量

国内債券のリスクが上がっています。
この場合のリスクというのは、金利上昇懸念とか価格が下がる可能性、という意味ではなく、ボラティリティ(標準偏差)という意味です。
金融機関を中心にリスク管理ツールとして使われているVar(バリューアットリスク)の測定において、ボラティリティというのはリスクの定量化過程でのメインファクターです。
市場が今後変動する可能性が潜在的に高くなっていると判断されると、リスク総額をコントロールするためにその資産の保有残高を抑制する行動が求められます。この判断は純粋にリスクコントロールの視点で行われるため、市場が上がるか下がるかといった相場観とは切り離して考えられます。
絶対水準としての金利感だけでは判断しにくい相場展開が国内債券市場ではしばらく続くかもしれません。

(2004.07.02)


顧客重視の運用

顧客重視の営業という言葉はよく聞きますが、顧客重視の運用、という言葉はあまり聞きません。
顧客重視の運用、というとなにか顧客の顔色をうかがった主体性のない運用をイメージしてしまうからかもしれません。
また、資産を運用している者にとって顧客の期待に応える唯一の手段はパフォーマンスであり、自らの信じる運用を淡々と行うこと以外になすべきことはない、という運用者も多いでしょう。

ただ不特定多数を相手にしている投資信託であろうと、原則的には相対の個別契約である投資顧問運用であろうと、相手が人間である限り顧客満足度というものが純粋にパフォーマンスだけに依存しているとは限りません。むしろパフォーマンスという好不調の波のあるものだけで顧客の満足度を長期につなぎとめることは、不可能なのではないかとも感じます。
正しい運用をしているか、ではなく、満足される運用をしているか、という視点もまた、運用者に求められるようになってきているのではないでしょうか。

(2004.07.01)

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