2007年11月の思いつき


ご託宣?

今朝「私の履歴書」を終了した田淵節也氏が会長だった頃、野村證券にいた私は田淵会長の年頭挨拶の大ファンでした。

ゴルバチョフが登場した年に「彼は世界を変える」と言い、90年のイラク進攻の半年も前に「今年は石油に気をつけろ」と言っていました。

そして十数年ぶりに目にした氏の言葉は、アメリカそして日本の経済システムの大きな転換点が近いことを示唆しています。

来年は今年以上の波乱を覚悟した方がよいかもしれません。

(2007.11.30)



消費者のモラル

北海道土産定番の「白い恋*」が販売再開後、即完売!という話を聞いて「日本における社会的責任投資の先行きは暗い…」と思ってしまいました。

忘れるのが早すぎるというか、割り切りが良すぎるというか、ブランド信仰が強いというか。
不祥事企業が市場から撤退させられることが、非常に少ない。

毎日五月雨式にでてくる各種偽装報道にも、消費者サイドはやや諦めと飽きがでてきており、その内何事もなかったようにフェードアウトするのでしょう。

消費者にモラルがない国の企業にはモラルは育ちません。

(2007.11.29)



大地の力

昨日のシティの8000億円の資金調達コストのあまりのひどさに、これは買い材料なのか、売り材料なのか、と首を捻っている私の横で、社長が一言。
「今、力があるのは、世界文明の発祥地ばかり。文明復古。時代は回る」

幾ら時代は回るといっても、幾らなんでも戻りすぎ。

基本的には国土が富裕な地域で生まれた文明ですから、今でも国土は富裕なわけです。もちろん大河の恵と地下資源とは、やや趣がことなりますが。

大地の底力、恐るべし、です。

(2007.11.28)



評価損と実損

「サブプライム関連投資での損失」という表現をした場合、それが評価損の話なのか、実損の話なのかを、明確にしなければいけません。

買い入れ価格より現在の市場価格が安い証券を保有していれば「評価損」、買い入れ価格より安い値段で売却してしまえば「実損」です。また自分で売却しなくても、保有証券が破綻してしまえば「実損」となります。

表現を変えれば「評価損」は流動的な損、「実損」は確定した損、です。

当然のことながら怖いのは「実損」であり、知らなければいけないことは今の評価損のうち実損に変わる金額と可能性です。

ロンドンで出会ったヘッジファンドの多くが、サブプライムの「実損リスク」は米国や日本ではなく、ヘッジファンドでもなく、欧州やアジアなどの銀行に偏在していると指摘していました。

米国金融機関の巨額な評価損の話題に隠れている実損が表面化してくるとき、市場はもう一度大きく揺さぶられるかもしれません。

(2007.11.27)



半導体株式と世界景気

今の株式市場を景気循環的にみれば、約半年に一度の定期的な在庫調整の谷間にいるといえます。世界株式市場の内、景気連動性の高い半導体業種だけを取り出した指数を見てみると、ほぼきれいに波をうっているのが判ります。ただ本来4月と10月に規則的に来ていた下降トレンドがこの4月には起きず、10月以降の調整がやや深くなってしまっていると見ることもできます。

また、別の見方をするならば、この3年間の株式市場全体の時価総額の伸びに対し、半導体関連業種の時価総額はほとんど変化がなかったということが判ります。新興国経済がテイクオフするする中、世界的に生産需要が拡大しているというこれまでの論理展開とは、やや異なる画が見えてきます。

今の株式市場の調整が単なるシクリカルなものなのか、それともこれまでの成長神話の変化の前兆なのか。可能性は半々でしょうか。


(2007.11.26)



ドル売り

シカゴの円先物取引の建て玉を見る限り、いわゆる円キャリートレードとその巻き戻しは終わっているように見えます。
今はどちらかというと、円はドルに対しロング気味です。

今のドル安に、欧州各国の経済団体や、ドル連動相場制をとっている新興国などから悲鳴が上がっています。

久方ぶりの為替介入というシナリオも、まんざらありえなくもないように思えます。

トレンドをおいかけてドルを売りすぎるのも、そろそろ危険な匂いがします。

(2007.11.22)



債券アクティブの時代

ヘッジファンド戦略において収益機会が高まっているという意見が多い戦略の一つに、債券戦略があります。

理由は、各国の中央銀行が今後「利下げ」をするのか「利上げ」とするのか、誰もわからなくなってしまったから、ということのようです。

金融システム不安と物価と景気の「三すくみ」の状態において、金融政策への思惑が交錯しています。

中央銀行にとっては、心底悩ましい環境ではあるのですが、ヘッジファンドを含め債券のアクティブ運用者にとっては久々に存在感を発揮できる環境が到来したようです。

(2007.11.21)



ロシア・ロマノフ王朝

ユーロ統合の際「ハプスブルグ家が復活したと思えばよい」と言った人がいましたが、今のロンドンを見る限り「ロマノフ家が復活した」と言った方がよいのかもしれません。

ロンドンの電車にもバスにもカフェにも、驚くほど多くのロシア人がいます。ロシア資本の再開発ビルを見て喜ぶロシア人ツアー御一行にも出会いました。

「ハプスブルグ-ブルボン連合」に取り込まれることを嫌がりユーロ統合に参加しなかった英国は、「ロマノフ家」に侵食されている現状をどう思っているのでしょうか?

今後「ハプスブルグ-ブルボン-ロマノフ」による大欧州が視野に入ってくる中、米英アングロサクソン連合が指をくわえて静観するとも思えません。

ドルとユーロの覇権争いはまだまだ波乱がありそうです。

(2007.11.20)



クラクラするほどの弱気

呆れるほど強気な米国系のヘッジファンドマネージャーと話していると頭が痛くなってきますが、悲しくなるほど弱気な英国のヘッジファンドマネージャーと話していると眩暈がしてきます。

弱気、というよりも慎重という言葉を使った方が正しいのかもしれませんが、今後の景気の方向性や金融システムの回復までの道のりについて、ロンドンであったマネージャーは非常に悲観的でした。所詮ヘッジファンドなので市場見通しが悲観的であるからといって自分達のファンドが儲からないといっているわけではないのですが、マクロ見通しについては口を揃えて悪化すると言っています。

日本や米国市場でよく言われる「サブプライム問題の峠は越えた」という表現をロンドンで聞くことは一度もなく、逆に「金融市場のパラダイムシフト」という表現を幾度となく耳にしたことが大変印象的でした。詳細はまた東京で…

(2007.11.17)



ロンドンにいます

ロンドンの朝です。
ニューヨークとの比較感において、あたりまえの静かな朝です。

一晩中サイレンの音をBGMとすることもなく、意味不明で陽気なおじさんがコーヒーを入れてくれるわけでもなく、ごく普通の人々のなかで、静かに一日が始まります。

では、行ってきます。

(2007.11.15)



出張です

今日から来週月曜日まで、海外出張となります。

こんな荒れている時にいないのかと、お叱りを受けそうですが、そんなことを言っていると、あと一年ぐらい出張なし!ということにもなりかねないので、思い切って行って来ます。

思いつきも不定期更新となりますので、ご了承ください。

追伸:あまりにも時間がなくて、いつものお留守番ネコの写真が手配できませんでした。あしからず… 

(2007.11.14)



金余りの国の信用収縮

サブプライムとは関係なく、今の日本は信用が収縮しているようにみえます。

消費者金融の総量規制やクレジット審査の厳格化で個人の信用枠は削減され、新興市場の低迷でベンチャーへの資金流入は止っています。
中小企業向けの公的保証限度が引き下げられ、BIS規制の影響を受ける金融機関は国債投資への傾斜を高めています。

実は年金制度の給付削減といった制度変更も、負債を減らすためのバランスシートの縮小化であり、ある意味では信用収縮です。

それでもお金は余っていて、為替の証拠金などという、なんの役にも立たないところに滞留したり、大損したりしています。

金余りの国の信用収縮。今の日本の漠とした不安の根源はこの辺りにありそうな気がしています。

(2007.11.13)



国際PER比較

日本の株式の予想PERは16倍を割れたので割安です、という話をよく聞きます。

数字の取り方にもよりますが、ちなみにブルーンバーグ社の計算によれば、今年度の予想PERはTOPIXで16.3です。
同じ計算で、米国のS&P500は15.65、英国のFT100で12.54、ドイツのDAXで13.30という数字と比べれば、まだまだ割高なままです。

日本株式が他の欧米市場より割高であってもよいという発想はどこからくるのでしょう?
確かに過去の歴史だけをみれば日本の株式市場は恒常的に割高を維持してきましたが、それは今の中国が43倍であるように、戦後の高度成長下の株式市場において、成長バイアスがかかっていた頃の名残なのではないでしょうか。

そうでなければ、単に価格変動幅が大きく、効率的ではない市場であるためのリスクプレミアムがついているということになります。

すでに高度成長を望むべくもなく、かつグローバルな金融市場の一翼を担うべく市場も効率化されているとするならば、日本株は少なくても他の欧米市場並のPERへ収斂するはずです。

今の株式が安すぎると嘆くのではなく、これでようやく日本市場も先進国の仲間入り、と思えば、多少の気休めにはなりませんか?

(2007.11.12)



ゴミは資源ダ?!

原油の高止まりが継続していることだけが原因なのではないのでしょうが、少なくても東京都ではこの1年で、ゴミの分別収集に劇的な?変化が起きているようです。

簡単にいえばプラスティックなど石油由来製品やゴムや皮など、燃料になるものは、「燃えるゴミ」になるというもの。

難しくいえば「サーマルリサイクルモデル事業」というそうですが、これまで「燃やしてはいけないもの」として埋め立てていたエネルギー効率の高いゴミを生ゴミなどのエネルギー効率の悪いゴミに混ぜることで、焼却時のエネルギーを節約することができるそうです。

これまで、学校や家庭で子供に教えてきたことのコペルニクス的大転換なわけですが、まぁ理屈は通るので教え直すしかないですね。

原油価格が想定の3倍にもなれば、世の中色々と変わるものです。

(2007.11.09)



サブプライムという呪文

この四半期の運用報告が、ことさら緊張感がなく聞こえるのは何故なのでしょう?

とりあえず、サブプライムと呪文を唱えておけば、全てが説明がつくとでもいうかのようなミーティングが多すぎます。

本来、この四半期は、国内外の株式市場が「資源と新興国一色」になってしまったり、為替のドル安ユーロ高が加速したり、日本では東証一部に久々の大型倒産があったりと、何もサブプライムだけに限らず説明しなければならない事象が沢山あると思うのですが、こちらから質問しない限り何も言ってはくれません。

そもそも日本の住宅市場環境はサブプライムとは関係なく混乱しているわけで、日本の銀行は別にサブプライムだけで売られているわけでもないでしょう。

材料が多すぎて消化難なのかもしれませんが、もう少し緊張感をもちましょうよ。

(2007.11.08)



政治家の顔とリスク管理

「小沢辞任」のニュースが出た日、ファイナンシャルタイムズに小沢さんの顔写真が掲載されたそうです。海外で「顔」が知られている数少ない政治家の内の一人かもしれません。

今回の騒動を見ていて、政治家というのは人に何かを任せるということがとても苦手な人々の集まりなのだと感じます。

民間の組織であれば、対外的な「顔」と、内部を統括する実務のリーダーとの役割分担がされているものなのですが、政治家は全て自分で把握しないと気が済まないようです。

安倍前首相にしても、なんでも自分で決めようなどと思わなければ病気などにならなかっかもしれないのに、と思ったりします。

外向きの「顔」と内向きの「顔」が一つしかない組織は、ストレスに弱いものです。

政治の世界はもう少し組織としてのリスク管理を学んだ方が良いのではないでしょうか。

(2007.11.07)



物価が怖い

全世界の製造業の労働力の85%が新興国人口だという話を聞くと、少し怖くなります。

新興国の経済が活発化し、彼らの生活水準が必然的に高くなっていけばいくほど、製造コストが上がらざるを得ないからです。

先進国内での労働コストは、景気サイクルにしたがって伸び縮みが可能な、コントローラブルなコストです。

それが新興国の低コスト労働に依存したことで、先進国の製造業がこれまでのように制御することが難しくなってくるのではないかと思うのです。

統制可能と思われていた原油価格が暴れ、労働コストが制御できなくなった状況というのは、これまでの経済金融政策の根本を揺るがす変化を招くような気もします。

これから数年。物価が怖い時代が来ないとは限りません。

(2007.11.06)



過去に学ぶ

メリルが市場の流動性が枯渇したMBS関連商品を買い戻し条件付でヘッジファンドに売却したのではないかという問題が、「山一の飛ばし」とどう違うのか?

そもそも、コマーシャルペーパーの様な短期の資金調達を回転させながら、ローンやPEなどの長期の資産に投資した結果資金繰りに行き詰った今回のヘッジファンドの構造と、「長銀や日債銀の破綻」とどう違うのか?

金融技術が高度化し複雑化しているように見えても、基本的に人間の考えることなど、そうそう変わるものではないのでしょう。

過去の統計に依存しすぎるのは危険ですが、過去の歴史に学ぶことは大切なことです。

(2007.11.05)



感度

どんな形であれ、金融市場を相手に仕事をしていく上で「感度」というのはとても重要な資質だと思っています。

言葉は悪いですが、上げだろうが下げだろうが、市場が動けばある種のアドレナリンが出る。自分の知らなかった現象については知りたいと思う。予想外の結果については何故だ?と悩み、理解を超える現象については怖いと思う。

こういう単純な感度が、今の日本の運用機関にはどこか欠けているのではないでしょうか。

この文章を読んで、「でも資産運用は長期の視点だから」と思った人、「それは運用部の考えることで営業やRMは関係ない」と思った人、何か間違っています。

(2007.11.02)



欧州の不安

日本銀行の展望リポートが欧州経済の減速懸念に触れたことに対し、金融市場との関わりが少ない方にとってはやや意外感があったかもしれません。

とはいうものの、今回のサブプライム騒動の被害が潜在的に大きいのは欧州金融市場ではないかという観測は、金融市場内では広く知られていることでもあります。

現に、負債に対する信用リスク指標をみると、米国の銀行や証券は最悪時に対しやや落ち着いた水準にいるのに対し、欧州系銀行の信用リスク値は銀行によっては夏場の最悪期に並ぶ水準に到達しています。

米国に比べると公開させる情報がやや少ないため、不安心理が高まっているのが現状です。アメリカだけを見ていると何か誤るかもしれません。

(2007.11.01)


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