2013年11月の思いつき


勘所

この仕事をしていると時々企業TOPの方々の意思決定プロセスに立ち合わせていただく機会があります。
運用方針の大枠や資産配分等を検討していく過程において、こうした方々と議論をさせていただくと、意思決定における「勘所」というものの存在を感じます。

「細かいところは判らないけど、結局こうなれば良いんだよね」といった部分の押さえ方の絶妙さは、優秀な経営者の方々独特の感性なのでしょうか。

現場から積み上げたデータの数値にこだわるのではなく、データの持つ「意味」を理解する、という感覚はとても大切なものです。

木を見ないで森の話ばかりをされるのも困りますが、木ばかりを見ている傾向のある現場サイドにとっては、学ばなければいけない姿勢でもあります。

寺本名保美

(2013.11.29)



これぞ杞憂

想定よりも強い住宅指標と、雇用統計が重なったため、米国では再びQE3の縮小観測が高まっています。

イエレンさんの緩和継続発言から来年3月以降と思われていた判断が、いきなり今月中という議論になっても、米国株式市場は堅調で、一時期のようなパニックは見られません。

通貨についても1円程度の反応ですし、エマージング市場についても比較的平穏に推移しています。

5月と8月の騒動で、エマージングや金利関連のポジションがかなり軽くなっている、ということも一つですし、米国の景気回復に対する確信度が高まってきていることも一因でしょう。

まぁ但し、過去数年を見る限りにおいて、市場にやや過熱感が出てくると不思議なほどに、災いが天から降ってきたこともまた事実。

今の天を見上げると、なんとはなく大陸方向が煙ったく感じるのは
大気汚染のせいなのか。

天が落ちてこないことを祈る…まさに杞憂な日々。

寺本名保美

(2013.11.28)



知る権利…

特定秘密保護法案。

法案があろうとなかろうと、自らの職務に関わることは口外しない、というのが、従来の常識だったはず、という話は、別にして。

今回、報道機関やマスコミ関係者が批判をすればするほど、それを見聞きしている側が冷めてくるのは、どうしたことかと思っています。

私個人の感覚として、政治家や官僚が信用できない、というのと同じ、若しくはそれ以上に、今の報道機関の質というものが信用できない、と感じているからかもしれません。

報道機関が、自分達に知る権利がある、という言葉を使う度に、「だから?」とか「それで?」とか思ってしまいます。

「自分達」という単語を使う時、本来的にはその単語の先にいるはずの国民一人一人が見えてこないのです。

というか、重要な情報であればあるほど、あなた方経由では知りたくない、と思ってしまうのです。

だからと言って、SNS等の不特定情報のほうを信じると言っているわけではないのですが…

国民の知る権利を代表するはずのマスコミと、国民との信頼関係が毀損しかけているようにみえる現状は、秘密保護法案の是非以上に大きな問題のように感じています。

寺本名保美

(2013.11.27)



新興国の苛立ち

9月のQE3停止の先延ばしで、一旦縮小したようにみえた先進国と新興国の株式市場の収益差が、11月になって再び拡大をしています。

新興国からの回避というよりは、「先進国中心の経済回復」という一年前には誰も信じていなかったシナリオへの期待感が、徐々に高まってきていることも影響しているのでしょう。

自国の株価や通貨が弱くなっていることそのものへの懸念、というよりも、経済が再び先進国中心に回り始めていることへのある種の苛立ちのようなものを、新興国側から感じられるようになりました。

そうした苛立ちの多くの部分は、先進国経済が回復していることが原因なのではなく、新興国経済が期待されたほど成長しきれていないことに原因があるのですが、施政者達からすれば矛先を先進国に向けるしか国内を収める方法は見当たらないでしょう。

そんなことを思っている矢先の、タイの反政府デモ。
財務省を占拠?
こんなことがしばらくあちらこちらで続きそうな、嫌な感触があります。
寺本名保美

(2013.11.26)



いつの間にかジェットコースター!?

どうも、世界各国で、市場に対するリップサービスが、過剰になってきたように感じます。

欧州の債務問題が、金融システム不安に繋がることはもうない、と言い切ってしまったり。

GPIFの資産配分について、決っていないことを、勝手に口にしてしまったり。

口が緩んで株価が上がり、株価が上がるから口も緩む、という悪(好)循環。

これが、本当の好循環になれるのか、将来のとんでもない悪循環のきっかけを作っているのか、今はまだわかりません。

ここまで快適な新幹線に乗っていたはずが、いつの間にかジェットコースターに乗り替わっているような、ちょっと妙な気分がしてきました。
寺本名保美

(2013.11.25)



退職年金制度

厚生労働省の調査によると、勤続35年以上のサラリーマンの退職金が、5年前調査に比べ大卒で330万円、高卒で270万円、減少したそうです。

また、中小企業を中心に退職給付制度がない企業が調査対象企業全体の4分の1に上ったとのことです。

この5年、企業が退職金を減らしたからといって、給与所得が増えたわけではないのは、自明のことです。

また、会社が退職金積み立てをしないからといって、個々の家計が将来のために何か積立を増やしている様子もないことが、家計貯蓄率の低下が止まっていないことからも判ります。

公的・私的を問わず、退職年金制度というものを議論する際、企業や国で積み立てるより、現金給与として各人に支払った方が合理的だという論調がよくみられます。

現実は、退職年金制度がなくなったからといって給与は上がらず、仮に各人に分配したところで、それが将来積立になる可能性は極めて限定的です。

今各地の総合型基金において、将来の基金のありようが真剣に話しあわれています。
退職年金制度というものの存在意義を、労使ともに一度真剣に考えてみるよい機会にできればよいのですが。
寺本名保美

(2013.11.22)



終わった話

GPIFが、リスク資産を増やす見込みだから、株が強いとか、円安だとか、囃すのは、止めたほうがよいと思います。

所詮、許容解離幅が、国内株式で6%もある訳で、現在の基本配分を12%とするなら、国内株式の配分比率は6%~18%の間で自由に動かせます。

実際、恐らく今でもGPIFは15%を超える国内株式を保有しているとみられることから、今回の議論において株式の比率を数%上げるかどうかなどという議論は、ある意味とっくに終わってていることに対し、後付けの理屈を作ってあげただけのことです。

いつの場合も、ニュースになったとき、時すでに遅し、ということを、忘れないことです。

寺本名保美

(2013.11.21)



境界線

中央銀行による金融緩和というカンフル剤は、実体経済の回復までの時間稼ぎであることは、誰もが判っています。

この前提が崩れない限りにおいて、金融緩和には一定のプラス効果があります。

但し、この前提が崩れ、金融緩和が経済対策の中心となる局面において、この政策のマイナス効果は加速度的に膨張します。

言い換えるなら、金融緩和による資産インフレ効果だけで、経済を動かそうという安直な方向に政策の舵が切られた時、その国は「バブル崩壊」への道を歩み始めるのです。

今この境目を歩いている、米国と日本と欧州。
どうも、米国がこの坂を下り始めたように見えることに、少し恐怖を感じるようになってきています。
寺本名保美

(2013.11.20)



期待6割、心配4割

ITバブルと不動産バブルので作った高値を、三度目の正直で抜けてきた、米国株式市場。

今回は何のバブルか?
はたまた、米国経済が根本的な転換点を迎えているのか?

期待と心配、半々よりは、若干の期待寄り…

寺本名保美

(2013.11.19)



金融機関の格下げ

先週Moody's社が、米国の大手金融持ち株会社の格付けを引き下げました。

米国景気が回復し、金融環境も好転している中での格下げに感じる「違和感」が、今の金融機関の置かれている行政リスクを端的に表しています。

今回の格下げの原因は、米国の金融当局が進めているDodd-Frank法の整備において、米国の金融機関への公的資金でのコミットメントを軽減させる方向性が出ていること、が挙げられています。

大手のシニアの格付けは軒並み、A格を失い、劣後性資産はトリプルB格の下位へと格下げになっています。

リーマンショック時、実質的に国と中央銀行に取り上げられた、大手金融機関の実質的な経営権は、未だ本来の経営者の手には戻っておらず、巨大すぎる金融機関に対し政府がフリーハンドを与えることは、当面ないようにみえます。

米国の社債投資関連のファンドでは、こうした金融機関の発行している債券等への組み入れ比率はどこも高いのが現状です。

生殺与奪の権を国に握られている業態への投資は、どうも気が進みません。

寺本名保美

(2013.11.18)



新議長とのコミュニケ-ション

米国のイエレン新FRB議長の発言が出始めました。

しばらくは、新議長の発言に過剰に反応する状態が続くかもしれません。

誰であっても、言葉の使い方には癖があります。
バーナンキ議長とイエレン新議長とが、仮に同じ単語を使ったとしても、そのニュアンスには微妙な違いがあるのは当然のことです。

そのニュアンスの違いや、イエレン新議長の特性が、市場参加者やマスコミに浸透するまでは、いわゆる「FRBと市場との対話」というものがギクシャクする場面が出てきそうです。

そもそもサブプライムショック以前の債券市場では、「市場との対話」などという言葉がこれほど重視されていませんでした。
中央銀行が答えを教えてくれないといって、ぐずぐす言っている金融市場の方が、情けないという意見もありますが。
寺本名保美

(2013.11.15)



アダ花!?

長期投資家の方々と、お仕事をしている立場上、あまりこういう話をしてはいけませんが…

国内株式市場とドル円相場の、大きな三角持ち合いのチャートをみていると、ドキドキワクワクします。

上下の値幅が少しずつ小さくなっていき、三角形の頂点のようなものを形成すると、その市場は早晩、上か下かに大きく放れる(動く)と言われています。

この数日、どうも円安株高の方向に”放れそうな”雰囲気があって、経済環境的には何の根拠もない大相場を、密かに期待してしまっりしています。

チャートというものは、盲信するものでも、頭から否定するものでもなく、単なる気休め位に思っているのが、一番無難ではあります。

とはいっても、今回のようなあまりにも綺麗なチャート形成は、年末迄の一相場を狙って乗っかりたくなる人びとを惹き付けます…

一瞬のアダ花かもしれませんが。
寺本名保美

(2013.11.14)



ブランドは結果です

NECグループが、世界最軽量のタブレット端末を売り出すという見出しを見つけ、軽い、に目がない私は興味津々で記事を読み、悲しいため息だけが残りました。

『持ち運びやすさと、¨NECブランドの”安心感をうったえ、タブレット初心者を…』

ブランド、という言葉の使い方が間違ってはいないか、と思うのです。

タブレットの市場において、NECのみならず日本のメーカーは、完全な出遅れ組です。タブレット端末において日本のメーカーにブランド力は存在しません。

特に取り柄はないけれど、NECという名前だけで買ってくれるお客が対象です、という意味でブランドという言葉を使っているのなら、それは消費者に対しても、何よりも自社の開発スタッフに対しても失礼です。

ブランドというものは、努力して維持し、努力して育てるものです。

製品の質の結果としてブランドは存在するのであって、製品の質を補うために存在するのではありません。

いつまでたってもグローバルブランドになれない、日本の資産運用業界を長く見ていて感じる不満は、日本の大企業共通の問題なのかもしれません。
寺本名保美

(2013.11.13)



黒いシンデレラ城?

日本のカジノ構想。
取り敢えず名前がでたのが、三井不動産,鹿島,フジテレビ 連合。

アウトレットやディズニーランドでのアミューズメントの経験値を持っている三井不動産が名乗りをあげるのは、当初想定通りとして、仮にも報道機能を持つグループの参入は、議論を呼ぶかもしれません。

というか、この連合体の作るカジノ
って、一般的なものからみると、かなり毒を抜かれたものがイメージされるのは気のせいでしょうか?

家族連れで行かれるカジノ?
テーマパークとアウトレットの外れにあるカジノ?
白いシンデレラ城の裏に建つ、18禁の黒いシンデレラ城!?

カジノの目的が、胴元が儲けることではなくて、単純に観光客を増やすことに主眼をおくならば、それはそれで良いのかもしれませんが。

ラスベガスほどの規模を持てるわけでもないなかでの、いかがわしくないカジノ…

中途半端に成らなければよいのですが。
寺本名保美

(2013.11.12)



他国への興味

フィリピンを襲った台風30号。

総人口約8500万人のうち、約1000万人が被災し、一万人以上の死者が出る見込みとのことです。

こういうことがある度に、東日本大震災でアジアをはじめとする諸外国の方々が日本に対し感じて下さったような痛みや想いの何分の一を、我々は感じているのだろう、と考えてしまいます。

よくも悪くも、他国への興味が薄い。
来るもの拒まず、去るもの追わず。
ウェットなようで、ある意味淡白。

外からみると、ひどく判りにくいであろうこの国民性。
直らないものなのでしょうか…
寺本名保美

(2013.11.11)



もったいない

ファンドのパフォーマンスの調子が悪いものの、パフォーマンス事由だけで解約の決断がつかない程度の当落線上にある場合、運用や営業担当者の説明力が明暗を分けます。

ごく当然のことなのですが、このごく当然のことを、きちんと認識できていない会社の多いこと。

少しでも納得してもらえるように、一生懸命考えて資料を作ってきました、というような姿勢「さえ」あれば、切られずに済むものを…と他人ごとながら、「もったいない」と思ってしまいます。

新規採用でも同じことで、どんなに良いファンドであっても、営業資料の作り方一つで、検討の土台にすら乗らないこともあります。

株式市場では企業に対してIRの重要性を説いているはずの、運用会社。自社については進歩がないのはどういうわけでしょう?

寺本名保美

(2013.11.08)



嘘をついてはいけません…第二段

楽天優勝77%引き!!
で、値引き前の表示価格を倍以上にかさ上げした業者があったとか。

有名喫茶店で、生クリームを植物性ホイップで代替していたとか。

嘘はいけません…
が、
判るでしょ、普通。

一個1000円以上のシュークリーム?
植物性ホイップでも美味しいと思ったなら、それでよくて目くじらを立てなければいいことです。

全てにおいて、騙された方が悪いということは絶対になく、百パーセント騙した方が悪い、というのが私の信念であることは、変わりません。

ただし、騙す人間が増える環境というのは、騙される側が醸成している、ということは、どこかで自覚すべきだと思うのです。

消費者、もっと頑張らないと…

寺本名保美

(2013.11.07)



食べてみた?

雪崩のように出てくる「食品の表示偽装」問題。

「嘘をついてはいけません」という当たり前のこととは別の視点で見てみます。

少なくても「自社ブランドの冠をつけて」販売しているものについて、販売責任にあたる会社の人が、実際に食べてみているケースはどれだけあるのでしょう?

和牛メンチカツに豚肉が50%混じっていました。
牛ヒレ丼は、整形肉でした。

これを、実際に販社の担当や幹部が買って、食べて、「気づかず」放置したのか、食べたこともないので「気が付かなかった」のか、とても興味があります。

品数が多すぎて、食べきれない、というのは言い訳です。
管理しきれないほどの品目を扱う方が悪いのです。
食べても判らなかった、という話はあまり聞きたくありません。

なんとなく、日本の運用業界の構造にも共通するところがあるなぁと思いながら、記事を眺めています。

寺本名保美

(2013.11.06)



野球が面白かった、という、不思議

三連休は、野球を観ていたら、終わっていました。

野球中継を面白いと思ってみたのは、久しぶりのような気がします。

どちらのファンでもなく、ゲームをみているのが、純粋に面白いと思ったのは、やはり選手の気持ちの入れようの違いもあったのかもしれません。

だからといって、力一杯130試合をするのは無理そうで、だったら試合数減らせばいいんじゃないかと、思ったり…

プロ野球は観ないけど、オリンピックやWBCのような短期決戦は観るという人も沢山いそうだし…

商業スポーツのマネジメントって、本当に難しいものです。
寺本名保美

(2013.11.05)



組織力という誤解

最近、キーマンリスクのあるファンドを推奨することが増えています。

一時代前までは、組織運用論が全盛で、株式でも債券でも個人のファンドマネージャーへの依存度が大きな商品は、評価されない傾向がありました。

他や他国のコンサル会社さんの傾向などについて、ほとんど知識がないので、世間一般がどうなっているかは知りませんが、少なくてもスポンサーを話しをする限りにおいて、キーマンリスクの存在を以前ほどは嫌がらなくなっているように思います。

組織運用と銘打ったところで、主要な投資判断者個人の影響を排除できるわけではなく、むしろそれをオブラートで包まずに堂々とリスクとして晒してもらったほうが、委託者としても納得感があります。

特に日本のように資産運用会社としてのカルチャーが、十分に醸成されていないような国においては、組織運用を主張しすぎることは何も説明しないことと同義語になります。

もちろん個人のスキルを生かせる組織力は大切です。一人で運用ができるわけはありません。
資産運用会社に必要な組織力とはそういう次元のものであって、意思決定を合議するための組織力ではないと思うのですが。

寺本名保美

(2013.11.01)


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