2018年03月の思いつき


採ればいいというものではない

野村ホールディングスの新卒採用が過去5年で最低の500人になる、そうです。

私が入社した1980年代後半。入社後のバブル相場の中で、採用人数が300人の大台を超えたと話題になっていたことを思い返すと、なんだか不思議な気がします。

日本の証券市場のピークであった1990年頃の倍近い人数を採用していたということで、その間業務のIT化は進み、ネット証券の進出もあり、当時の倍もの新卒を採用しなければならない理由が見えて来ません。

この間メガバンクも1000人採用を謳うようになり、大量採用の結果新卒一人ひとりへのケアは当然薄くなるばかりです。

日本の会社の最大の利点と強さは、新卒を育てることを「業務」である、と認識していたことにあると思っていたので、昨今の「大量採用大量退職」は日本企業の人材育成の根幹を劣化させる行為だと考えます。

働き手が減っている中において、雇用する側にも責任の持てる規模での採用が求められる時期が来ているのかもしれません。

寺本名保美

(2018.03.29)



最大の期待外れ

このところの米国の株式市場の乱高下については、値幅の大きさは気になるものの、値動き自体は合理的に説明が付きます。

それに対して日本の株式市場については、下がるにしても上がるにしても、気分と受給だけで、さっばり脈絡がありません。

バリエーション調整後に、待ってましたと買い出動をしたいと思える銘柄が直ぐに頭に浮かぶ訳でもなく、外部材料に右往左往するばかりです。

足元で世界の投資家の期待を最も裏切っているのは、ネット関連銘柄ではなくて日本銘柄だったのかもしれません。

寺本名保美

(2018.03.28)



新しい技術と新しいリスク

Google、Facebook、Twitterが相次いで、仮想通貨とICOの広告の掲載を停止することを決定しています。

既存メディアに比べれば、より仮想通貨市場に近いと感じるSNS業界が、既存メディアに先んじての広告規制に踏み切った背景には、近いからこそ判る「リスクの臭い」があったということなのでしょうか。

それにしても、テレビを視ていると相変わらず、ビットコインのCMが流れています。FXのCMが一時期問題になった時と同じように、CMの最後にリスク告知を入れるようになっていますが、数秒の文字告知など、気休めにもなりません。

CMだけに限らず、今回の仮想通貨絡みの新商品の取り扱いにおいて、日本の立ち位置が各国に比べ、どうも緩く見えるのはどうしてなのでしょう?

予想外に展開が早い技術革新の波に乗り遅れまいと、行政がやや前のめりになりすぎているようにも見えます。

足元の技術革新の先陣を切っているSNS各社の今回の決断の背景に何があるのか、日本の行政もメディア産業もしっかりと分析する必要がありそうです。

寺本名保美

(2018.03.27)



アメリカの本音

今回のトランプ政権による対中貿易戦争宣言を受け動揺している株式市場に比べ、米国のメディアは意外なほど冷静にコメントしているように見えます。

トランプ政権でなかったとしても、対中国に対しては同じような措置が取られていただろう、というコメントも目につきます。

オバマ政権後期の所信表明演説の中に、「貿易のルールを作るのは中国ではない」という文言があります。

トランプ大統領の物言いには、表現の問題はあるにせよ、アメリカ国民の本音が少なからず潜んでいることを忘れないほうがよさそうです。

寺本名保美

(2018.03.26)



古く悪しき伝統

「スーパー301」という単語が懐かしく思える、などと呑気なことを言っている場合ではないのですが。

日米の貿易戦争というと、自動車が念頭に浮かびますが、1988年に制定され1989年に発動されたスーバー301条のターゲットは日本の半導体やスーパーコンピューターでした。

製造業の中心がコンピューターへと大きく舵を切り始めた時期の米国の苛立ちが、今から振り返るとよくわかる事象ではあります。

その後の90年代前半の米国リセッションの最中、クリントン政権もスーパー301は小規模ながら復活しており、トランプ政権の今回の判断は米国にとっては伝統的な手法を踏襲しただけなのかもしれません。

今回のターゲットは明らかに中国。とりあえずは鉄鋼製品の話だったはずが、知的財産権の侵害の話に拡大しており、当時の日本との関係を彷彿させます。

今回のスーパー301条の適用で轟いた号砲で始まる、米国の中国の世界経済を巡る覇権争いは、何処に向かっていくのでしょう。

寺本名保美

(2018.03.23)



眩しすぎる5%

米国パウエル新議長における初めてのFOMCは波乱のない結果に終りました。

パウエル氏の議長の会見時間が史上最短であったとか、イエレン議長との細かい差異はともかくとして、政策の方向性についての特色が出てくるのはもう少し先になるのでしょう。

気になるとすれば、2020年末の最終的な短期金利が3.4%と3%を超える水準で想定されていることで、この水準を基準に長期金利を想定するのであれば、米国の10年金利は5%の水準が見えてきます。

根拠はともあれ、先進国の長期金利が将来的に3%台で均衡すると決め打ちしている市場参加者は債券だけでなく株式市場にも多い様に思う中、5%の長期金利を市場が何時どのように織り込んでいくのかは、今後の大きな注目点となるでしょう。

長い低金利に慣れ過ぎた目にとっては、5%という数字は眩しすぎて、視界を遮ります。

寺本名保美

(2018.03.22)



規制強化への懸念

Facebookとウーバーと、時代の寵児2社が同時にトラブルに見舞われたことで、株式市場のFANGバブルの調整が意識されるようになりました。

これだけ、急成長した業界である以上、成長の過程において、波風があるのは当たり前です。

特にこの2社については、ビジネスモデルのビジョンが明確ではなく、Google/Amazon/Appleなどの実需の見えるものとは異なるリスクを内包しています。

懸念されるのは、今回の問題により今の経済を牽引している社会の電子化が頓挫することではなく、これらの業界に対する政府の介入が強化されることでしょう。

折しも、米国・中国・ロシアと、規制強化に前向きな巨大政権が揃っています。せっかくの新しい社会システムが時の政権の都合のよいように誘導されてしまうのは、残念でもあり、恐ろしいことでもあります。

多少のスピード調整は致し方ないにせよ、健全な社会構造改革が頓挫していまわないことを祈るばかりです。

寺本名保美



 

(2018.03.20)



理解不能

組織的なドーピング違反を問われ、国家としての参加が認められなかったオリンピック・パラリンピックの直後に行われた、ロシア大統領選挙。

2年前には原油の急落と経済制裁で、経済危機宣言を出していたロシア。その後の経済の立ち直りは、単に原油価格が戻ったからであって現政権の功績であるとも思えない。

映画のようなスパイ暗殺事件発生し、外交的な成功とも程遠い。

スポーツでの国威も、経済的な国威も、外交的な国威も、発揚されているようには見えないにもかかわらず、絶対多数で現政権が再任される不可思議さ。

理解できない我々がおかしいのか。

新たな歪みの始まりなのか。

寺本名保美

(2018.03.19)



道具が変われば頭も変わる

日々変化する身近なデジタルグッズを色々試してみると、道具による刺激が、自分の脳に与えている影響を実感することがあります。

紙の本と電子本とでは、視覚を通したインプットに明らかな違いがありますし、最近試してみた朗読型のオーディオブックが刺激する脳の部位は、同じ小説であっても視覚を通した時の部位とは異なる気がしています。

ちなみに、1.5倍速でオーディオブックを聞いていたら、自分の発言も妙に早口になっていて、びっくりしました。

キーボードとスマホの生活で、本当に字を書くことが下手になり、ペンを持つ指の筋肉に衰えを感じているので、ペン習字でも習おうかと本気で思っています。

環境への適応力が優れているからこそ、ここまで生き残ってきた人類。
この先にあるのは、進化なのか、退化なのか、微妙な領域に到達しつつあります。

寺本名保美

(2018.03.16)



仮想敵国

プーチン大統領再選を前にして飛び散る火種が、どこに飛び火するかと思っていたら、メイ首相が拾いました。

今の英国は、そんな厄介な火種を拾っている場合では無いのですが、フォークランド紛争時のサッチャーさんの顔がメイ首相に重なって見えたりもします。

流石に今の時代、国内の不満や不協和音を、対外的な戦闘行為で解消しようなどという安愚な発想はないと思いますが、思うがままに行かない国内政治での苛立ちが、対外政策での判断を拙速にしている傾向が、彼方此方の政権で見て取れます。

さて、日本。内政が如何ともしがたい点については他国の比に負けないものがありますが、外に喧嘩を売るようなエネルギーを持ち合わせていないのは、不幸中の幸いというべきでしょうか。

寺本名保美

(2018.03.15)



政局よりも大事なものがある

自国の財務大臣の進退には無反応だった一方で、米国の国務大臣の進退には大きく反応する我が国株式市場。

足元のグローバルな投資環境に与える影響力の差、ということでしょうか。

別に個人の影響力の話しではなく、日米の差というだけでもなく、金融財政政策と外交軍事政策とを比較した時、足元では外交軍事面への不安が大きくなっていることの表れだと言えるでしょう。

急激に動きだした米朝関係に対し、米中関係には距離が広がりつつあるようにも見えます。ロシアはこのところ不気味に大人しく何を考えているのかよくわかりません。

トランプ大統領の予測不能な行動が、グローバルなパワーバランスの軸を揺さぶっていて、地球全体の居心地がどうも悪くなってきたようにも感じます。

政局よりも大事なものがあると言っているように見える株式市場の反応は正しい理解なのかもしれません。

寺本名保美

(2018.03.14)



望んだ結果

90年代後半頃からか、官僚支配という言葉が盛んに使われるようになり、そのことが日本の規制緩和を阻害し、経済の成長の足を引っ張っているという議論になり、郵政民営化や省庁再編、そして内閣人事局の設立という一連の流れができました。

足元ではかなり収まってはきていましたが、霞が関官僚へのバッシングは酷く感情的で、優秀な学生が軒並み待遇のよい外資系に流れてしまう現象も起きました。

このところ、霞が関を震源とする事件や騒動が続いています。官僚の質の劣化を指摘する人もいます。
実際のところは判りませんが、もし本当に官僚の質が劣化し、霞が関が機能不全を起こしているとするならば、それこそがこの20年間に渡り、政治やマスコミや国民が自ら意図して、望んできた結果でもあるわけです。

官僚機構がこれ以上シュリンクすることで、曲がり角にある日本全体の企画能力の喪失にならなければよいのですが。

寺本名保美

(2018.03.13)



政治と市場の距離

今日このまま、日本株が上昇して終わるとするならば、それはそれで今の日本株市場と政治との距離感を測るには良い材料となるでしょう。

昨年10月の総選挙前後の海外投資家からの買い越し分は、年明け以降の売り越しでほぼ相殺されてしまっています。

その間に黒田日銀総裁の再任は決まり、金融政策の方向性には当面変化の可能性はありません。

足元で大型財政が予定されているわけでもなく、今国会の最大課題が働き方改革なのであれば、ここで安倍政権や麻生大臣の進退が問われるようなことになったとしても、金融経済上の支障は限定的であるとみることもできます。

とはいえ、国会の混乱が日本の株式市場に全く影響を与えないと、言い切るものそれはそれで悲しいものがあります。

暫く慎重に影響を見ていく必要があると考えます。

寺本名保美

(2018.03.12)



歯痒い上昇

昨晩の米国株式が上昇しているのは、トランプ政権の輸入関税の適用に幅があり、懸念していたような全面貿易戦争にはなりそうもない、という安堵感で買い戻されたのであって、トランプ政権の今回の決定が米国経済にとってプラスになると思っているわけではありません。

今日、日本市場で株価が落ち着きを取り戻し、この流れて欧州も反発し、明日の米国株式市場が元気に上昇するようなことがあれば、トランプ大統領はきっと、「今回の輸入関税強化が株式市場にも高い評価を受けている」と勝手に解釈をするのでしょう。

ここ1年の堅調な株式相場を「トランプ相場」と表現する人がいますが、それは大きな間違いです。この1年のエンジンは企業ファンダメンタルズそのものであって、トランプ大統領を始めとする各国の政治家はブレーキにしかなっていませn。トランプさんの政策を批判しつつ、「トランプ相場」などという単語をメディアが使うから、トランプさんの勘違いが止まらない。

さて、株式市場が堅調であることよいことではあるものの、政策の間違いを客観的に正すことがこれでできなくなるのは、なんとも歯痒いばかりです。

寺本名保美

(2018.03.09)



未だに後遺症

先日のセミナーで、過去の金融ショック時の仮想ポートフォリオ収益率の検証をしたのですが、ドル圏や欧州圏の投資家に比べて日本の投資家の損失がどうしても大きくなる傾向がありました。

理由はいくつかあるのですが、大きいのは為替と債券。

何かショックがあった時、米国ではドル安が、ドイツではユーロ安が、ポートフォリオ全体を救っているのですが、日本はブラックマンデーの時代から、ショック時には円高。

過去のグローバルなショックにおいて幸か不幸か日本が震源地になったケースがなかったこと、かつ、1990年代後半には既にゼロ金利で金利に低下余地が殆ど無かったためショックの際には利下げ余地の大きい海外との金利差が縮小する方向にベクトルが動いてしまったことが、ショックの円高を招いてきた一因だと思われます。

ショック時に債券の収益があまり助けにならなかったのも、金利が無かったから。

こうしてみると、バブル崩壊後後の超長期デフレと低金利が、いかに長く深刻に、我が国の資産運用環境を毀損してきたかがよくわかります。

90年バブルからの深刻な後遺症は、30年近く経った今でも、まだまだ完治には程遠いということなのかもしれません。

寺本名保美

(2018.03.08)



セミナーお礼

昨日は、ソニーフィナンシャルホールディングスのチーフエコノミストである菅野雅明先生をお招きし、弊社の定例セミナーを無事開催させていただくことができました。ご来場いただきました皆様に厚く御礼を申し上げます。

菅野先生からは、足元の経済環境は依然として好調であり、今暫くはこの好調な環境が継続するものの、中央銀行がコントロールないほどの景気の加速が生じるリスクとその後の反動に対する備えの重要さについてのご見解をいただきました。

私の部分については、過去のリスク発生時において、日本の金融市場に起きた事例の分析と、今後のリスシナリオについての可能性について説明をさせていただきました。

今回説明したようなリスクシナリオが、今年来年で到来するとは思っていませんが、過去の歴史から学ぶ努力は絶え間なく続けていく必要があると思っています。

寺本名保美

(2018.03.07)



セミナーです

本日は弊社の20周年特別セミナーの開催日です。

特別講師として、菅野雅明先生をお招きし、今後の金融経済シナリオについてご講演いただきます。

後半の私の部分は、「リスクのシナリオ-ショックに耐えて危機に備える運用戦略」です。

資産運用におけるリスク管理の歴史は失敗の連続です。過去の失敗を振り返りながら、これから何をすべきか考えるための一助となればと思います。

出席をご予定いただいている皆さま、どうぞよろしくお願いいたします。

寺本名保美

(2018.03.06)



米国国民の心が読めない

トランプ大統領は成績表が大好きなので、最も分かりやすい成績表である株価が急落することは望まないと、株式市場の人達は思い始めています。

トランプ大統領は当初無理難題を「吹っ掛けて」も、最後は意外にまともな線で落ち着いているので、今回も大丈夫だろうと、楽観しようとしている人もいます。

問題は今が中間選挙目前であるということ。我々にとってわからないことは、トランプ大統領を選んだ米国の支持者達が、株式市場の上昇と、時代錯誤な「貿易戦争」という言葉のどちらを好むのか、という点。

トランプさんの心を読むより、トランプ大統領を選んだ米国国民の心を読む方が、よほど難しい。

寺本名保美

(2018.03.05)



市場の政治問題化

今年想定した政治リスクが同時発生した金融市場です。

昨日コメントした英国のハードブレグジット懸念。
米国のトランプ政権が中間選挙前に通商交渉を全面に出してくること。
日本の安倍政権が再度混乱し政権の安定性に疑念がでること。

ベースには米国の利上げ問題が燻ってはいるのですが、足元においては、やや市場が政治問題化しています。

政治問題での下落は長続きはしないものの、経済ファンダメンタルズから投資家の意識が一時的に離れるため、やや深押しをするリスクが高まります。

3月末の着地が少し気になってきました。

寺本名保美

(2018.03.02)



強気のEUと混乱の英国

EUから28日公表された英国の離脱協定草案で、EUと英国が十分に包括的な通商協定を締結できない場合、北アイルランドには英国ではなく、アイルランド共和国と同一の規則が適用される、との文言が入ったことで、ポンドは急落しています。

この文言が入ったことで、英国のメイ政権とEUとの離脱交渉の行方が混とんとしたばかりでなく、英国統治下の是非をめぐる北アイルランド紛争の再燃が彷彿されることになりました。

一方、ドイツの大連立の成否を握るドイツ社会民主党(SPD)の党員選挙は4日に結果が発表されますが、事前の世論調査によると大連立推進派が優勢と報じられています。大連立が実働すればドイツのEUに対するコミットはこれまで以上に強くなると考えられており、ユーロの基盤は安定していきます。

ブレグジットの交渉期限は実質10月。2016年の英国国民の選択が招いた混乱はこれから半年が本番です。

寺本名保美

(2018.03.01)


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