2021年02月の思いつき


主役交代

長期金利というものは、「緩やかな上昇」という言葉が本当に似合わない市場です。

レンジ相場と次のレンジ相場との間に真空地帯が発生して、階段状に変化します。

レンジが変わる時の真空地帯においては出来ることは何もなくて、次のレンジが固まるのをただ待つしかありません。

ここでビックリして売り買いをすると損を重ねることになります。

次のレンジを形成するにあたっては、次の理屈の形成が必要です。

参加者のコンセンサスとなるような水準感が醸成されるまでには、時間の経過も必要になります。

今のところFRBはこうした債券市場参加者の自立的な水準形成プロセスを尊重する姿勢を示していますが、レンジの上限を探る過程で発生する行き過ぎた金利上昇があれば、何等かの警告を出すことになります。

足元の債券市場の変動は、債券市場からみれば、あまり珍しいことではありませんが、超低金利の継続を頭から信じていた株式市場にとっては、やや衝撃的な状況かもしれません。

突然の環境変化に戸惑う株式市場参加者に対し、久々のボラティリティ復活に息を吹き返した債券市場。

久々の主役交代にはしゃぐ債券市場が、羽目を外さなければ良いのですが。

寺本名保美

(2021.02.26)



バブルの条件と崩壊のシナリオ

今が何等かの金融バブルの過程にいるのかどうかの判断基準として、2年前のセミナーで掲載した項目を再掲します。

①実需で吸収しきれない流動性があるか?
②資金が集中する特定のテーマがあるか?
③バリエーションの基準が定まっていない市場があるか?
④実は施政者側も歓迎しているか?

この基準で見てみると、今の金融市場は確実に何等かのバブルの中に居そうに思います。

ではこのバブルは何時終わるのか?については、上記の4つの項目の内①と④が消滅した時、と答えます。

①と④について米国や欧州や日本を見ていると、当面来ないように感じるものの、中国について考えると意外に早く来るような気もしています。

今回のバブル崩壊が中国を起点に起きるというシナリオについて、頭の片隅に置いておきたいと思っています。

寺本名保美

(2021.02.25)



許容範囲を探る

パウエル議長発言が現状の緩和政策を当面の間継続する可能性を強く示唆したことについては、金融市場としては織り込み済です。

今、債券市場中心に金融市場参加者が本当に知りたいことは、長期金利の自律的な上昇に対するFRBの見解です。

現在1.3%まで上昇している長期金利は、どこまでが許容範囲なのか?

将来的に長期金利に対し誘導レンジを想定する可能性はあるのか?

そもそも中央銀行が市場金利である長期金利に対し、水準を誘導することは可能だと思っているのか?

今回のパウエル議長発言では、このテーマに係る発言はまだ出てきませんでした。出てこなかったという事実を踏まえた債券市場は1.3%は許容範囲の中にあると理解し、次のターゲットを探しに行くことになります。

次のターゲットは1.5%なのか2.0%なのか?

FRBが警告を発する水準がどこにあるのかを探る展開が、暫く続くことになります。

寺本名保美

(2021.02.24)



電気というトリガー

テキサス州で起きた大規模停電の原因は、異常寒波による風力発電施設の凍結によるものとされていますが、もっと根本的な原因は「間欠発電」である風力発電を下支えする従来型発電を減らし過ぎたことにあると、WSJが報じています。

米国の政治はクリーンエネルギー政策の推進を重視するあまり、電力の安定供給という本来の目的を見失っているのではないかと警告しています。

一方の日本では、この冬、電力需給の圧迫により、新電力と呼ばれる電力小売業者が苦境に立たされました。また、新電力と変動価格で契約していた家庭においても、電気代が突然値上がりするという事象が起きていると言われています。

各国のエネルギー政策というものが色々な意味において転換期にある中、今回米国や日本で起きた突発的な電力危機は、今後頻度が上がってくると思われます。

DX化社会における、電力危機は今後の経済シナリオにおけるストレスシナリオとして抑えておかなければいけないものになりそうです。

寺本名保美

(2021.02.19)



次のトリガーを探せ

米国10年金利が1.3%に、30年は2%に、そして日本の10年金利が0.1%となりました。

所謂バブルが終わるきっかけは、大きく分けて二つあって、その一つは長期金利の上昇で、もう一つは政策的な規制強化です。

足下で、まずは長期金利の上昇が始まっていますが、雇用問題や産業の二極化を抱える各国政府が今のバブルを潰す様な規制強化策に出ることは当面無いというのが、強気派の主張です。

規制強化のトリガーになりそうな市場は、ビットコイン等の仮想通貨か、米国の個人を熱狂させているマイクロキャップの株式、そうでなければ中国国内におけるプラットフォーマービジネスへの介入、というところでしょうか。

各国中銀が政策金利を上げなくても長期金利は上がるし、各国政府が株式市場を冷やす意図を持っていなくても規制強化はバリエーションを切り下げます。

どこの市場がトリガーになるのか、あまり楽観的になり過ぎずに、見ていきたいと思っています。

寺本名保美

(2021.02.17)



説明責任

今日の続きですが、、、

GPIFがリスクを取った運用をして、日経平均が30,000円になって、それが国民生活にどの様なメリットがあるのか。

日銀が株式を大量に購入して、大きな含み益を持って、それが国民生活にどの様なメリットがあるのか。

郵貯簡保が国債運用からリスク資産投資に舵を切って、資産価値が大きく上昇したとして、それが国民生活にどの様なメリットがあるのか。

もちろん、それぞれ、理論的には、国民生活に対するメリットがある訳ですが、そのメリットを理解しているのは、当人達の他、極限られた専門家だけ、というのでは、本来の資金の保有者であり、受益者である国民に対して説明責任が果たされていません。

単なる通過点か、金融相場のあだ花となるかは、兎も角として、二度と見ることはないと思っていた日経平均の30,000円乗せが、コロナ禍で冷えた国民心理の改善にさっぱり寄与していない様に見える原因の一つは、我が国の金融資本のメインプレイヤーとなった彼らの、アピール不足にあります。

金融資本の過半を広義の公的資金が抱えている我が国に於いて、株高が短期的な消費者心理の改善に繋げるためには、受益者である国民目線での説明力の強化が必要であると考えます。

寺本名保美

(2021.02.16)



株高が拡大させる二極化

東京の高級ホテル30泊連泊3食付きで75万円や30泊素泊まり30万円といった新サービスについての、SNSの反応を興味深く見ています。

あるテレビ報道に対するコメント欄300件をザ~と眺めてみると、「お得感がある、泊まってみたい、お金があれば泊まりたい」といったポジティブな反応と、「自分には縁がない話題、くだらない、一部のお金持ちの話」というネガティブな反応が、半々位だったように思いました。

概して一方通行になりやすいコメント欄で、反応が二分されていることは、それだけ今の社会の二極化が幅広い層で起きていることを示しているように感じます。

日経平均が3万円に乗せたといっても、株高の恩恵を受けているのがGPIFと日本銀行と一部の個人、という今の構造では、株高の恩恵を国民が幅広く感じることはできませんし、却って社会の二極化を拡大してしまうことになってしまいます。

今の株高が、国民生活全般に何等かの恩恵をもたらすような仕組みが無いものかと、考えています。

寺本名保美

(2021.02.15)



存在の理由

差別や偏見というものは、その存在を否定するのではなく、その存在を認識した上でなければなくならないと思っています。

今回の日本のジェンダー問題を見ていて、「あんな考え方をする人が居るなんで信じられない」といったトーンで世論が形成されていることが、酷く気持ちが悪いです。

存在を否定した議論は、見なかったことにする議論と同根です。

存在しているものには、理由があります。その理由はその理由を生じさせている原因を解決していかなければ、何一つ前進しません。

今回のジェンダー問題が日本社会の何に対して根本的に問いかけているものなのか、考えてみないといけないと思っています。

寺本名保美

(2021.02.12)



為替パターンの崩壊

為替市場と株式市場との関連性が崩れているという話をよく聞く様になりました。

コロナ禍によって、主要国の金利が横並びで無くなり、各国政府の財政拡大で財政赤字への懸念も各国似たり寄ったりになっています。

更に少し前までは、為替市場を見る視点は、ドルとユーロと円のトライアングルで理解することができましたが、今は、中国元やビットコインといった新たな極が加わりトライアングルのバランスだけで為替市場を読むことが難しくなってきています。

為替市場が得意としてきた、パターン化された戦略が、外部ファクターの変化によって、有意性を低下させています。

為替市場が予想外の変動を起こすことも、これから一年のリスク要因かもしれないと思っています。

寺本名保美

(2021.02.10)



プロはバブルが解らない

2008年の金融危機後、同時の著名なヘッジファンドマネージャーに聞きました。「何故貴方ほどの経験と知識のある人が金融バブルを察知することが出来なかったのか?」
その人の答えは、
「高速道路を走っている車が、全員でスピードを上げたらば、自分がスピードを出し過ぎていることに気付くことは難しい」
というものでした。
その時私は、「でも走っていない景色を見ていれば判っただろうに」と思いました。

1980年代後半、私はバブルを生成している現場に立ち会っていました。30年以上経ってから当時の上司に「あの時バブルを生成しているという認識はあったのか?」と聞いてみました。
その人の答えは、
「当時の市場価格の正当性に全く疑問を持っていなかった」
というものでした。
まだ入社後数年で当事者ではなく鳴門の渦の生成を至近距離で眺めている傍観者だった私は、当時も今もあれは意図的に作り上げた絵に描いたようなバブルだったと思っていたので、この上司の答えには本当に驚きました。

ことほど左様に、バブルというものは、中に入ってしまうと気が付かないものです。
そして当事者がそれをバブルであったことを知るのは、必ずそれが弾けてからです。

だから、今の株式市場の参加者に、バブルの話を聞くのは無意味です。
そして、今がバブルであったかどうかは、弾けてみないとわかりません。

バブルであるかどうかをプロの判断に頼るのは、一番危険なことかもしれないと思っています。

寺本名保美

(2021.02.09)



会議のお作法

国内外でハレーションをおこしている森喜朗さんの会議発言。

ジェンダー問題と同時に、日本の会議文化の不可思議さを見直すきっかけとなれば良いと思っています。

事前の段取りと根回しが何より大事で、会議そのものは事前に決まっていることを確認し承認するだけの儀式、というのが日本の伝統的な会議のお作法です。

だから、その場で意見も質問もないのが当たり前。
ある意味、今回廃止が議論されている認印みたいなものでしょうか。

日本人は会議で発言がないと海外の方から指摘されるのは当たり前で、別にシャイな訳でも、意見が無い訳でも無くて、言わない様に訓練されているから。

政府の専門家会議も審議会も、基本的な構造は同じ。そもそも結論ありきの会議に時間と税金を使うのは、やめたほうが良い。

ジェンダー問題にしてしまった森さんの発言は失敗だったけど、会議ってそういうものだよなぁ、と思っていらっしゃるそこの方々。

日本の伸び悩みの原因の一つである会議のお作法。根本から見直してみませんか。

寺本名保美

(2021.02.07)



超長期金利の上昇

米国の国債30年利回りが上昇しています。現状の約1.9%越えはほぼコロナショック以前の水準となっています。

政策金利に近い中短期金利は低位で安定し、10年金利はコロナショック後の低下幅の約半分を戻し、30年金利は全部戻した、という展開です。

株式市場等リスク資産市場では、FRBの金融緩和政策が少なくても今後2年間継続することを前提にした過剰流動性相場の継続を信じていますが、現実の金利は政策金利に関わらずインフレ期待や国債需給で変動します。

また個人消費への影響が強く出る住宅ローンにとっては30年金利の影響が強くでることや、株式のバリエーションを計算する際においても長期金利の上昇はマイナスに影響します。

超長期の金利がコロナショック前に戻っていることについて、株式市場が今後どのように反応していくのか、注意深く見守っていきたいと思います。

寺本名保美

(2021.02.04)



超楽観のお気楽相場のその先

第3四半期の運用報告会が始まっています。

参加者全員が強気で揃った報告会となっています。

確かにセンチメント指数などを確認してみても、ファンドのフローを見てみても、11月後半から12月にかけて市場センチメントが本格的なリスクオンに傾いたことが窺えます。

要因の一つは米国の大統領選挙が終わり政策の不透明感が後退したこと。
もう一つはワクチンの実施が始まり、コロナ禍の終わりが見えてきたこと。
そして行き場の決まっていないお金が、企業にも個人にもファンドにもジャブジャブしていること。

金融市場的にみれば全てがリスクオンに繋がるものの、どれもこれも金融市場特有の期待値に裏付けられているもので、一般社会からすれば現実味の薄いものかもしれません。

金融市場が生活者を置き去りにしてきたことは過去に幾度となくありましたが、今回の乖離はやや酷すぎる気がしています。

米国で起きている「機関投資家VS個人」という社会現象が誤解と歪んだ正義に基づいたものであるとは思うものの、今のお気楽相場を見ていると、これを招いた一端が我々機関投資家側にもあるのかもしれないとも感じます。

生活者目線を置き去りにしたお気楽相場の先にあるものが、明るい結末であるとは、どうしても思えずにいます。

寺本名保美

(2021.02.02)



消費の先行き

GODIVAが米国から撤退し、米国ロクシタンが更正法を申請し、ティファニーは高級宝飾品に特化することが発表されました。

世界有数の観光都市であったニューヨークからお土産ビジネスが消えていきます。

観光と消費というものには不思議な因果関係があるもので、不要不急の無駄遣いは旅先という変なスイッチが押されることによって、増幅します。

巣篭もり当初は、目新しい通販にハマった消費者も、一年も経てばそれが日常となりスイッチ効果は無くなります。

国内外での移動が無くなり、一通りの通販も当たり尽くし、段ボールを潰すのも飽きた私の消費活動は、お陰様で現在極めて健全です。

買うのを忘れた消費者が、コロナ禍が終わっても、戻ってこないような気がしているのは、私だけでしょうか。

寺本名保美

(2021.02.01)


build by phk-imgdiary Ver.1.22