2021年04月の思いつき


財源の幅

バイデン大統領の新たな経済政策構想である「米国家族計画」の財源として富裕層増税があげられています。

この富裕層増税だけで、1.5兆ドルの歳入増を見込んでいるそうです。

米国でこの政策が成り立つのは、全国民の上位1%にあたる富裕層の総資産が39兆ドル、つまり4000兆円もあるからです。

ちなみに、我が国の個人金融資産の総額は約1900兆円。
あるシンクタンクの調査によると、内1億円以上の金融資産を持つ富裕層は全体の2.5%で、資産総額は300兆円程度とのことです。

4000兆円に1%増税すれば40兆円。300兆円に1%増税しても3兆円。

4000兆円は米国の国家予算の約10年分。300兆円は日本の補正込みの国家予算のたった1年分です。

結果として日本の場合は、個人ではなく法人税に比重を置くことになる。

財源の幅が広いというのも、米国の強みの一つであることを改めて認識しています。

寺本名保美

 

(2021.04.29)



値上げで勝負

日銀が2023年までの物価目標を、従来の2%から1%に引き下げました。

黒田日銀が主張し続けてきた、日本国民のデフレマインドの払拭への道筋は、未だ見えてきません。

例えば、この4月に消費税の内税表示が義務化された時、大手の量販店が消費税相当分の値下げを行いました。

最も消費者に近い業態が、こうしたプライシングをしてしまうことに、この国の物価に巣食う病巣を感じます。

また、コロナ禍において「エッセンシャルワーカー」という言葉が社会で認識されるようになりましたが、社会にとって必要不可欠な仕事と表現しているだけで、報酬が切り上げられたわけではありません。

最大収容人数が半分になった劇場やレストランは、本来であれば顧客単価を上げなければ収支が合わないのに、むしろ集客の為の値下げに走っています。

様々なコストの変動を、企業努力と労働者報酬で吸収することが、経営者にとっての美徳であるかのような社会の風潮をどこかで断ち切らないと、この国のデフレマインドは、永遠に残っていくでしょう。

日本の物価が上がるためには、まずは、値下げではなく、値上げで勝負できるような、強気のマインドを持った経営者が現れることが必要不可欠なのかもしれません。

寺本名保美

(2021.04.27)



ルールメーカーへの道

バイデン大統領が、突然気候変動サミットを主催したのは、気候変動リスクを深刻に捉えているから、というよりは、欧州や中国主導で世界的な流れが出来つつあることへの焦りだったようにみえます。

世の中がゲームチェンジをする際の勝利は常にゲームのルールを作った者の手にあります。

温暖化ガスの抑制や、クリーンエネルギー化が今後の経済活動における本流になるのであれば、そのルールは絶対に米国が作らなければならないと、バイデン大統領は判断し、そのルールを米国に勝手に作らせない為に、中国は米国の作った土俵の上に乗ってきたのでしょう。

地球の将来に思いを寄せて、目先の対立構造を棚上げして、世界が参集した、気候変動サミットであった、というような美しいだけの話ではないということです。

日本は取り敢えず、先行する欧州のレベル感に足並みを揃えるだけで精一杯で、とてもルールメーカー側に立てる感じではありません。

先行していたはずの水素でも、最近は出遅れが目立つ日本。
国際社会における地盤沈下が、とても気になっています。

寺本名保美

(2021.04.26)



想定より早い

昨晩のバイデン大統領による、キャピタルゲイン課税強化の一報は、その幅の大きさにショックを受けたものの、あまりの幅の大きさが故に実現性を疑問視する楽観的な声も多く聞こえてきました。

水準についてはいわゆるハイボールであったとしても、バイデン政権が目指す増税方針が就任半年にして、早くも明らかになりつつあります。

増税方針のみならず、対中政策や気候温暖化政策など、市場経済にとってはやや厳しい政策が、政権発足時に市場が想定したスピードよりもかなり早いテンポで進んでいるように見えます。

コロナ禍からの景気回復や株式市場の勢いがあるうちに、市場インパクトのある政策を出し尽くしてしまうという計算なのであれば、それはそれで老獪であると思うものの、頭の上の荷物もあまり重なりすぎてしまうと流石の株式市場も一気に潰れます。

そろそろミシミシという音が、株式市場から聞こえてこないか、耳を澄まして聞いておきましょうか。

寺本名保美

(2021.04.23)



資本のリスク

テンセントからの出資を受けた楽天に対し、日本と米国が共同で監視を強めていると報道されています。

日本においては巨大3社に続く第三の通信キャリアを目指している最中であり、米国ではe-コマース企業としては初めての銀行免許取得を目指している最中のテンセントからの資本受け入れは、いずれもデジタル防衛戦略の観点から無視できないことであることは容易に想像がつきます。

通信キャリアになるためにも、米国で銀行免許を取得するためにも、楽天が巨額な資本増強が必要であったことは理解できます。

一方で、いずれも国家のインフラに関わる免許事業であることを考えた時、中国資本の取り入れが政治問題になることは自明のことでもあります。

それを承知の上で、何かの意図をもって敢えて行ったことなのかもしれませんが、背伸びをしたビジネスモデルの拡張を焦った結果に見えなくもありません。

今回の件に限らず、足元で活発化しているM&Aなどの資本取引においても、これから先はこうした政治リスクを意識せざるを得なくなりそうです。

寺本名保美

(2021.04.22)



情けは人の為ならず

米国が世界の8割にあたる国に対し渡航制限を発動したことが、この半年のワクチン相場の転換点になるかもしれません。

例え米国と英国において、ワクチン接種が進んだとしたところで、世界規模においてワクチンが浸透しない限り、結局のところ正常な経済活動の再開には程遠いということを、米国が明確に示したことになります。

一方で、欧州は今後のパンデミックに備え、国際的な条約や医療に関する共同研究を国の枠組みを超えて行うという主張を始めています。

自国優先主義は、国境を超えた感染症との闘いにおいては、各国の社会経済活動の停滞を長期化させる一因になることを、今回のコロナ禍で我々は学ぼうとしています。

米中だけでなく、欧露の関係も、かつてなく緊張している現下の情勢において、感染症という第三の敵に対し、共同歩調が取れるかどうか、人類の賢さが試されているような気がします。

寺本名保美

(2021.04.21)



日本という国

日本という国は主権の制限には慎重でロックダウンはできない国だから。

日本という国は過去ワクチン禍を経験していてワクチンは強制できない国だから。

日本という国は個人の行動追跡への抵抗感が極めて強く、アプリでの行動履歴の記録はできない国だから。

日本というこの国は、「日本という国は」という念仏をいつまで唱え続けていくつもりなのかと思う。

グローバルなパンデミックの最中において、政府の基本的対応に国ごとの独自性など必要なのだろうかとも思う。

日本という国、という呪縛から解き放たれるには、状況のさらなる深刻化が必要であるというならば、それはあまりに無謀で悲しい。

寺本名保美

(2021.04.19)



お土産は台湾有事という単語

日米首脳会談から、菅首相が持ち帰ってきたものは、「台湾有事」のリアリティだったように感じます。

米国にしろ中国にしろ、本音では交戦は避けたいと思っているのだから、という専門家の解説もありますが、ここ数年の米中を見ていると、実は実戦したいのではないかとも思えなくもない中での台湾情勢は、かなり不気味ではあります。

通常、有事そのものは株式市場には中立だといわれています。
ただそこから波及する二次的な影響が、経済に与える影響は無視できません。

90年の湾岸戦争の際は、戦争そのものではなく、原油価格の高騰が、金利高と株安の原因になりました。

万が一の台湾有事を考えた時、実態経済がまず考えなければいけないことは、間違いなく半導体供給になります。

逆に言えば、米中共に半導体の台湾依存度が低下するまでは、台湾問題を深刻化させることはないとも言えそうです。

それまでの数年間、日本は何をすべきなのか。

かつて無い災いの火の粉が、降りかかってきそうな、嫌な予感がします。

寺本名保美

(2021.04.18)



またまたまたの周回遅れ

当初の被害が小さいが為に、対応が後手となり、結果、危機からの立ち直りが他の先進国から周回遅れとなる、という日本のいつものパターンが、今回のコロナ禍においても踏襲されてしまいそうな状況となってきました。

回復が周回遅れになることで、世界経済の回復期の勢いを共有できず、自分が回復期に入った頃にはすでに他国はピークアウトしているために勢いをつける事ができなくなります。

金融政策も他国の緩和局面では緩和せず、他国が利上げモードに入っても、周回遅れの景気後退下にあるため同調できず、結局日本だけがいつまでも超低金利から脱出することができません。

80年代のプラザ合意から始まって、ブラックマンデー、湾岸戦争、ITバブルにリーマンショックと、延々と繰り返されてきた事です。

リーマンショック後の周回遅れを、黒田バズーカでようやくキャッチアップしたばかりだっただけに、今回はあまり引き離されないうちに対処できればいいのですが。

寺本名保美

(2021.04.15)



バブルの教科書

今の市場の話題は、バブルの教科書を読んでいるようで、とても面白いです。

ファミリーオフィスへの過度な取り組みで大損害を被ったプライムブローカーはLTCMの破綻に巻き込まれた米国商業銀行を思い出させ、テスラを買うリスクより買わないリスクの方が大きいという説明はITバブルの頃のアクティブファンドを思い出させます。

中国における不動産の総量規制や、米国で売り出す先から完売する住宅販売の話を聞くと日本の不動産バブルが懐かしく、米国の個人投資家が新株を争奪する姿はホリエモンショック前の小型株バブルを彷彿させます。

どれもこれも、過去の実例と比べると、まだまだ小粒で、弾けるには膨らみが足りないものの、これだけ広範囲にバブルの火種が確認できるというのはそれだけ今の市場の金余りが尋常ではないということでもあります。

そういえば、日本の不動産バブルが弾けた後、あの時の溢れ返っていたお金は、どこに消えてしまったのかと、真剣に悩んだことを思い出しました。

さて、今回、巨額な流動性を吸い取ってしまうブラックホールに繋がる火種は、どこになるのでしょうか。

寺本名保美

(2021.04.14)



不健全な労働環境

新疆ウイグル自治区問題に絡んだ人権問題が、国内外の民間企業に与える影響が拡大しています。

ウイグル問題に反応したアシックスなどのブランドは中国国内で不買運動の対象となり、反応しなかったユニクロなどのブランドは欧州の人権NGOから告発されてしまうという、ほとんど「前門の虎後門の狼」状態です。

今回の件に限らず、企業活動に社会的責任が強く求められるようになった現在において、サプライチェーン上の不健全な労働環境の存在が、ブランド価値に与える影響が、加速度的に増大していることを、改めて認識しています。

これは日本にとっても人事ではなくて、国際的に批判の対象になりやすい、外国人技能実習制度への依存度が高い農業分野などを本格的な輸出産業として育てていこうとするならば、外国人労働者問題を根本から見直さなければいけなくなるかもしれません。

いずれにせよ、足元でのグローバルな政治リスクの高まりが、世界における経済活動に具体的な制約を与えるところまできてしまっていることに、少し注意をしておいた方が良いかもしれません。

寺本名保美

(2021.04.13)



技術の進歩は素晴らしい

1時からの大事なリモート会議に、リモートに必至のイヤフォンが見当たらず、
マスターズ明けでボーとしながら、午前中ひたすら家探しを続け、
絶望感に襲われながら、ふと物干しにかかっている服のポケットの膨らみに目が止まり、
洗濯機でガラガラ回されたイヤフォンを発見。

週末遊びに来ていた3歳ギャングに疑いの電話をしていたので、その子の家にiPhone+洗濯後のイヤフォンでコール。

クリアな音声に、驚愕。

テクノロジーに、感動。

3歳ギャングに、陳謝。

寺本名保美

(2021.04.12)



似て非なるもの

管理職になりたいか、というアンケート調査が最近度々話題になっています。男女問わず、なりたくない、という回答が8割を超えているとも言われています。

人間の労働意欲を高める手段の一つとして、且つては「プロモーション」というキーワードがありました。日本語でいうなら「出世」です。

長い間、日本の雇用形態における労働成果に対しての報酬は、賃金とプロモーションによって構成されてきたわけで、その中の一つが受け手にとっては報酬ではなく苦痛である、ということになると、雇用の考え方を根本から考え直していかなければならないということになります。

ちなみに、外資系企業における「プロモーション」は「報酬」よりもむしろ強いインセンティブになっています。外資系における管理職は採用や解雇に関わる人事権や賞与などの報酬の分配権が与えられていることが多く、いわば社内企業における経営者のような立場になります。

いわゆる人事部は、人事や就業関連の事務管理を行う部門であって、人事権をもっているわけではありません。

最近は見なくなりましたが、リーマンショック前の金融バブル期には、外資系証券が日経新聞の広告欄を買い取って「今年のマネージャー昇格は下記の皆さんです。おめでとう~」みたいな記事を掲載していたこともあったほど、プロモーションは重視されています。

管理職とマネージャー。経営方針に従って管理する人と、経営の一部(マネージメント)の権限を委譲される人。

日本企業においても、プロモーションがもっと魅力的に思えるような改革をしていかないと、野心と意欲のある人材を繋ぎとめることが、本当に難しくなっていきます。

寺本名保美

(2021.04.08)



想定外?

日本のコロナ対策が酷く情けないものに見えるのは、想定外という言葉の使い方のミスなのではないかと思っています。

緊急事態宣言を春休み前に解除すれば、その結果は自ずと判っているわけで、それは変異種の感染拡大についても同じです。

実際に統計学の専門家は、初めからシミュレーションを出していて、それを判った上で政策を打っているわけで、今起きていることは想定外でもなんでもない。

であれば、そういえば良いのではないかと。

残念ながら感染が拡大しましたが、この事態は想定してあったことなので、次に予定している対策はこのように厳しいものになります。

想定しているなら事前に何か手を打てという批判ももちろんあるでしょうか、その批判よりも想定すらできない政府と思われるリスクの方が余程大きいと思うからです。

今起きていることが本当に想定外だと思っているとするならば、そもそも論外ではありますが。

寺本名保美

(2021.04.07)



間接主義の国

日本では、企業や個人に経済活動を促す時、税制を利用します。
例えば、住宅ローン減税とか、設備投資減税とか、いったものです。

一方の米国では、補助金などもっと直接的な方法が取られます。
国家として必要な技術開発や設備投資については、政府が資金を提供して民間に実行させます。

金融に、直接金融と間接金融、という概念がありますが、日本は金融機関経由で資金調達を行う間接金融の国、米国は株式や債券市場から資金調達を行う直接金融の国、と言われています。

税制というクッションを通して民間を動かす手法は間接誘導で、補助金で動かす手法は直接誘導というとするなら、日本は政策も金融も間接主義て、米国は直接主義ということになります。

政策のスピード感の違いの原因の一つである日本の間接主義の源は、年貢の時代から綿々と続く日本のカルチャーなのでしょうか。

今回のコロナ禍で、日本の官民揃ってのスピード感の無さを目の当たりにするにつけ、国の歴史に裏打ちされたカルチャーを変えることの難しさを感じています。

寺本名保美

(2021.04.06)



イラついたので

ある大手金融機関のサイトで、外為取引についての入力項目がありました。

取引先の英語名を入力すると入力エラーと出ました。

よくよく見ると、「英数字、スペースも含めて全角で入力のこと」と書いてありました。

長い英語のスペルを、一つ一つ全角で入力しているうちにサイトがタイムアウトしました。

こんなことは、金融機関だけではなくて、霞ヶ関を含め日本社会で日常に起きていることなのかもしれないと思いました。

金融機関や行政のシステムトラブルは、今後も減らないと確信しました。

以上。

寺本名保美

(2021.04.05)



短期と長期のバランス

新年度が始まりました。

今年度の戦略的テーマは、「短期と長期のバランス」です。

足元では感染拡大の第3波第4波が襲ってきている一方で、1年単位でみればワクチン接種によるコロナ禍の終息が視野に入りつつあります。

サービス産業を中心にリーマンショック時を超えると言われている深刻な景況感の悪化の先には、社会のデジタル化に向かう巨額のイノベーションやインフラ投資が見えています。

コロナ禍対応支援や巨額なインフラ構築と、国家財政主導の景気刺激策に期待が集まる一方で、その財源となる増税や国債増発がもたらす懸念も高まっています。

足元のデフレにフォーカスした各国の金融緩和が招く、将来の深刻なインフレを懸念する声も聞こえて来るようになりました。

視点をどこに置くのかによって、一つの材料がプラスにもなりマイナスにもなる難しい環境を迎えています。

実際の材料の変化がなくても、市場参加者のセンチメント一つで金融市場の方向性がガラリと変わる場面もあるでしょう。

市場の急変と回復を繰り返す一年になったとしても、右往左往しなくてすむバランスの取れたポートフォリオになっているか、もう一度点検してみましょうか。

寺本名保美

(2021.04.02)


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