2022年06月の思いつき


賃上げと値上げ

日本の最低賃金が、選挙の争点の一つとなる中、飲食サービス関連での労働者不足と賃金上昇が話題になり始めています。

労働者不足には、一時的な外国人留学生不足、という要因もありそうなので、常態化するかどうかはわかりませんが、ここで一旦上げた時給については、よほどの景気後退がない限りは下げられそうもありません。

製造業では原材料価格の上昇を理由に足元で価格改定をしています。

サービス産業にとって、人件費は製造業における原材料費と同じです。であるのならサービス産業においても人件費が上昇した分については、何等かの価格転嫁があってもよいのではないかと思ったりします。

賃上げしたいので、サービス料を上げます。という理屈が通るようになれば、日本のデフレの出口も見えてくるのかもしれません。

寺本名保美

(2022.06.29)



危機

今世界はかつて無いほどの危機にある、ように私には見えます。

戦後様々な苦難を経て構築された大国の軍事バランスが崩壊し、経済の囲い込みの加速はグローバリゼーションを前提とした企業の成長モデルを脅かし、エネルギー資源の高騰は各国内の生活インフラを侵害しています。

こうした危機は、国家間だけではなく、国内での分断と軋轢を招き、社会的安定を損なう可能性を秘めています。

そして、こうした環境下、国内外の政治家から出てくる発言や行動は、酷く軽くて薄い。

この軽さは、どこから来るのだろうと考えます。

通常危機の時代には、強いリーダーシップを持った指導者が台頭するはずが、少なくともG7をみている限り、今回はむしろ逆行しているようにみえます。

これは、今が本当は危機ではないからなのか、それとも社会における政治の役割そのものが変化しつつあるからなのか、単に人材が時代に適応していないだけなのか。

言ってみれば、こうした政治の軽さも含めて、やはり今は戦後最大の危機の瀬戸際にいるということなのかもしれません。

寺本名保美

(2022.06.28)



パンデミックの次

インフレも、通貨高安も、金利上昇も、賃金上昇も、今懸念されている経済事象の多くはそれぞれ良い面もあれば悪い面もあります。

しかしながら、食糧と電気の不足については、良い悪いが入り込む余地はありません。

今の世界経済が直面している本当の危機は、物価の高騰でも金利の急騰でもなく社会活動において、最も基本であり必要不可欠である、食糧と電気の供給不安であるのかもしれないと思っています。

この二つの不足については、ウクライナやコロナ問題以前から、世界で広く認識されていた地球規模での潜在リスクであり、それが突然顕在化したという点では、コロナ禍で爆発したパンデミックリスクに似たところがあります。

また、相対的に、財力のない国に、被害が大きく、大国が財力にモノを言わせて国内需要を確保することで、国家間格差が拡大するという構造も、コロナ禍でみた景色に重なります。

そして、最後は、ワクチン外交転じて食糧外交という、生活者の命を人質にしたような、国家間の囲い込みを招くことになるのでしょうか。

今年の日本は、空梅雨の猛暑が予想されています。
他人の心配をしている場合ではないのかもしれませんが。

寺本名保美

(2022.06.23)



刺激的な白書

デートをしたことがあるとか無いとかで話題にされている「男女共同参画白書」ですが、日本の社会制度に対する根本的な見直しを正面から提言しているという意味において、非常に刺激的な内容になっていると思います。

日本の年金を始めとする税金や各種行政サービスは、家計や家族を一つの単位として構成されてきました。

これは、家父長制の時代から、収入の獲得は家父長と男子が行い、家族の生活に係る労働は女性が担当するという、当時としては恐らく合理的な役割分担が制度として固定化されたことによります。

今回の白書が、もはや昭和ではない、とし、家族単位での行政サービスの見直しや、暗黙の無償労働に依存した育児や介護制度の見直しの必要を提言したことに今更感はあるものの、漸くこの議論ができるようになったのか、という思いもあります。

ここを変えるということは、日本の税制も社会保険制度の根幹も全て見直すことを意味します。扶養税制を変えることで、女性の働き手は増えるかもしれませんが、これまで家族内無償労働に支えられてきた育児や介護に関する公的支出は増加することになります。

社会を活性化させ将来的な日本の経済力の底上げに繋げるには、かなりの時間が必要で、それまでは財政的は厳しくなり、一時的に国民サービスの低下も起きるかもしれません。

参議院選挙の前に発表されたこの刺激的な白書について、与野党の政策に織り込まれることはあるのか、興味を持ってみています。

寺本名保美

(2022.06.21)



方向感と水準感

国内外ともに株式市場の価格調整が続いています。

米国の景気後退を織り込んだ下落であるとの解説が主流ですが、米国のS&P500 指数でみてみるとコロナショック直前の2019年12月近辺の水準感にあります。

実際の2019年12月の水準は3230なので今よりも12%程度低いですが、その間米国経済が成長していることを加味すると、実力的にはおおよそ近似値になります。

この間、あまりにも色々なことがあり、記憶が曖昧になってはいますが、2019年12月の株式市場は中国との貿易摩擦が急激に悪化する中、過剰流動性やネット関連株の急騰を受け史上最高値を更新していた時期にあたります。当時の自分の書き物をみても、高値波乱を懸念する記述も多く、バリエーション調整が必要な水準であると認識していました。

株式市場というものは、方向性や変化率を重視する時期と、水準感を重視する時期とがあります。

ここまでは、良くも悪くも方向感だけで市場が形成され、足元では変化率だけで恐怖感が醸成されていますが、ここから先は漸く水準感の議論ができるようになるでしょう。

まだまだ嫌な思いをすることになりそうですが、それほど悲観せずにいたいと思っています。

寺本名保美

(2022.06.17)



短距離走の号砲

FOMCでの0.75%の利上げは、事前の市場予想通りの結果と言われています。

但し、この市場予想は、ここ数日で急激に織り込まれたもので、1週間前のコンセンサスとは異なります。

今市場が織り込みつつあるシナリオは、FRBのインフレ対応の失敗シナリオで、例え景気後退を招くことになったとしても、利上げが遅すぎたことによるオーバーキルは避けられないというもので、これは今回のパウエル議長の発言内容からも裏付けられる形となりました。

ここから先の問題は、どこまで利上げをすればインフレが健全な水準まで収束するかであり、また、健全な水準についてFRBがどこまで許容するかです。
そして、重要なことは、この一連の作業は、かつて無いスピード感を伴って行われるだろうという点でしょう。

今回の0.75%はこれから始まる短距離走の号砲です。

FRBの急加速に振り落とされる市場も出てきそうではありますが、ゴールのタイミングもその分早くなります。

トルネードのような金利の嵐が過ぎ去った後に残る、力強い成長を期待しつつ、もう少しの間は身を屈めることにしましょうか。

寺本名保美

(2022.06.16)



見通しと前提

今回の株安もドル高も、きっかけは米欧中銀による利上げにあるのなら、今後の各国の利上げのパス、つまり期間と水準が見えて来なければ、株安もドル高も止まりません。

では、債券市場参加者に、そのパスが見えているかといえば、未だにこんなはずではなかったという愚痴ばかりで、先を読むどころでは無さそうです。

見通しを持つということは、何かを当てにいくということではありません。

大切なことは、結果ではなくて、見通しを立てる際の前提条件です。

結果か予想と異なったということは、予想を立てた時の前提条件かロジックかが誤っていたということになります。何か正解かはわからなくても、自分の持った前提条件のどこかが間違っていたことはわかります。

見通しを立てないということは、即ち前提条件も定めないということなので、世の中が大きく動いたとしても、その原因を見極める手掛かりすらありません。

今の債券市場に必要なことは、少なくとも昨年年末まで市場が予想していた金利環境と、足元の環境とで何か異なったのか、各々の予想が外れたのはどの前提条件が間違っていたのかを、速やかに冷静に分析することです。

金融市場の中で、最も理論的に動くはずの債券市場が、パニックになっていては、金融市場全体が落ち着きません。

株や為替での売買は、債券市場が本来の機能を取り戻すまで、様子を見た方が良いかもしれません。

寺本名保美

(2022.06.13)



健全な価格

日銀の黒田総裁のインフレ発言が炎上したことで、日銀の今後の政策の自由度が狭まったとの見方が、やや投機的な円安を加速させる一因となりました。

そもそもこの発言は、黒田総裁のその場での失言ではなく、日銀の政策判断の道筋に沿った公式な見解に近いものだと思われます。

発言の根拠となった調査を行った東京大学の渡辺努教授は、黒田総裁の講演会以前の先週、メディアのインタビューに対し「健全な賃金、健全な価格を取り戻す千載一遇のチャンスが到来している」。だからこそ現在の緩和姿勢は維持しなければならない、と発言しています。

この、「健全な価格」を取り戻すことが、黒田日銀の唯一最大の使命であった訳で、任期を前に漸く目的としていた環境の端緒が見えてきたことに、黒田日銀全体がやや前のめりになっていたことが、今回の炎上の原因だったとも見えます。

それにしても、デフレを終わらせることを使命として就任した総裁が、インフレを口にしただけでマスコミから総攻撃を受けるという日本の現状を誰がどう変えていくことができるのか。

本当に根の深い問題です。

寺本名保美

(2022.06.08)



戦後最大の危機?

政府がこの夏の電力使用制限の検討に入ったと報じられています。

元々、日本の産業用電気料金は主要国の中でイタリアに次ぐ高さで推移しています。これは原子力発電が停止される2011年以前から変わらない現実です。

また、少なくても2019年時点において、天然ガスを含めた化石燃料比率は韓国と並んで70%以上と高水準で、その半分を天然ガスが占めています。

つまり、足元での、エネルギー関連資源の急騰が、産業コストに与える影響は、主要国の中で日本が致命的に高いということを意味します。

産業電力のコスト低下問題は、日本の産業振興にとっての重要命題であることは、かねてから認識されていて、だからこその原子力であり、だからこそのサハリンプロジェクトでした。

各国が改めて原子力発電に舵を切る中、3.11の当事国である日本にとってそこへの回帰はそれほど簡単なものではなく、サハリンプロジェクトの先行きは暗澹としています。

半導体などのエッセンシャルなパーツの国内生産回帰も謳われていますが、生産活動をするための電源に供給やコストで問題を抱えているままでは、各企業も内製化への取り組みを躊躇することになるでしょう。それが回りまわれば国内の雇用問題にも影響を与えることにもなります。

足元の円安でとりあえずは凌げている企業決算ですが、この電力問題の解決への糸口が掴めなければ、程なく我が国産業は行き詰るでしょう。

もしかすると、日本の産業界は今、戦後最大の危機に直面しているのかもしれません。

寺本名保美

(2022.06.07)



中銀とのコンセンサス

米セントルイス連銀のブラード総裁が、政策金利を年内に3.5%に引き上げるよう主張した一方で、コロナショック前の2019年の金利環境、つまり政策金利が1.55%、米10年国債利回りが1.86%、住宅ローン金利が4%未満という水準が、インフレ沈静化後の米国金利におけるベンチマークとなる可能性があると、述べました。

この発言には、これからの金融経済市場にとって、非常に重要な論点が含まれています。

一つは、米国の中立金利は、コロナ前も後も変わらない、という見通し。

もう一つは、前段の文脈が実現する為には、今年中に短期金利を3.5%まで、引き上げる必要があるだろう、という意見。

逆にいうなら、現在市場が前提としている2.5%程度までの利上げで終われば、インフレが沈静化することはなく、ベンチマークとされる金利水準はコロナ前よりも高くなる可能性があるということです。

3.5%という水準が過激過ぎるかどうかは別として、その後の着地点を踏まえた上で、今のインフレとどう対峙するかを考えていくのは非常に大切なプロセスです。

中銀側から投げ掛けられるこうした議論を、市場がしっかり受け止めて、金融政策の着地点についてのコンセンサス早く形成されていくことが望まれます。

寺本名保美

(2022.06.02)


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