2012年02月の思いつき


儲からないから、来ないでくれる?

運用機関評価という仕事をする中で、運用戦略やパフォーマンスの話を聞く以前の段階で、評価対象から外すケースが稀にあります。

そういう会社の共通項は、年金基金ビジネスで一儲けしようという経営者の意図が見え隠れするところでしょうか。

年金運用ビジネスというのは我々コンサルティング会社も含め、おそろしく儲からない業界です。
こういう事件が起きてしまうと、一般の方にはなかなか信じてはいただけないかもしれませんが、日本の年金基金というのは日本中で最も保守的で真面目で臆病で、ケチな、投資家です。

運用報酬は個人向け投信の10分の1,販売手数料はなし、というのが一般的な形です。

こういう業界に時折儲かると勘違いをして、新規参入をしてくる異業種の方がいます。大概数年で諦めるか、トラブルを起こすかで、居なくなるのですが、AIJのの居座り方は堂に入って且つ長かった。

ここ最近、妙にこの業界に接近しようとしている人達を牽制するには、この騒動にも一利有ります。
寺本名保美

(2012.02.29)



デフォルトもまた権利

日本の事業債市場は、基本的には「破綻がない」ことを前提にしてきた市場です。 再び破綻のない国へ

バブル崩壊以降の20年、今のギリシャのような「銀行の自主的な債権放棄」から始まり、公的資金投入による選択的デフォルト、事業再生ADRのような事前協議型の債務整理と、公募債券への影響が極めて限定されたスキームで、企業整理が行われてきました。

こうしたカルチャーの中で運用をしてきた債券のファンドマネージャー達にとって、今回のエルピーダのような企業経営者側の選択によるデフォルトというのは、ほぼ初めての経験でしょう。

デフォルトというのは、企業経営において事業継続のための一つのオプション、いわば「企業側の権利」である、ということを日本の事業債市場が認識した事例として「歴史的な法的整理」となります。

今後の日本の事業債市場が、今度こそ大きく成長するきっかけになってくれればよいと思っています。
寺本名保美

(2012.02.28)



モノとカネの所在

先週来のAIJ投資顧問に対する報道後、運用機関の皆様から、自分のところがAIJと同じではないということを、どうやって外部に説明したらよいか?というご相談を幾つも受けます。

あえて言うなら、「モノとカネ」の所在を定期的に確認できるツールを提示することです。

今回のような事件は、運用手法にリスクがあった、とか、運用スキームが複雑すぎるとか、いうこと以前の問題として、「投資家が預けた資金がどこにどのような形で保管されているか」ということの確認が出来ていれば避けることができたかもしれないものです。

簡単に言えば「信用できるカストディアン」による「財産目録」が提示できればよいわけで、基本的には「和牛商法」で、投資家から集めた資金相当の「牛」がどこの牧場で飼育されているのか、数を数えてみればよかった、というのと同じです。

特に、デリバティブを用いた運用であるのなら、資産のほとんどは現金で保有されているはずです。「現金です」という一言で済ますのではなく、その現金がどこに幾らあるのかを、ちゃんと証明してあげればよいのです。簡単なことです。

こんな簡単なことを拒否するような会社には、絶対お金を預けてはいけない。これが今回の事件の全てだと私は思います。
寺本名保美

(2012.02.27)



怒りと悔しさと一抹の安堵

「AIJ投資顧問-高収益と虚偽-きょう業務停止命令 (日経新聞」

昨日ここに書いたコラムは、この会社を念頭においたものではありますが、今日の報道を知っていたものではありません。

昨日だけではなく、何度となくこの場でも、セミナーでも、講演でも、スポンサーには注意喚起をしてきたつもりです。

金融庁の調査情報受付窓口に調査依頼をしたのは2006年の1月。もう6年も前のことです。

マスコミの方達にも、調べて欲しいと、何度となくお願いしてきました。

今の時点で虚偽を証明できるなら、なぜ資産額がここまで拡大する前に摘発できなかったのか?私の中にはこの会社に対してより、むしろここまで放置した金融庁に対する怒りが拡大するばかりです。

そして何よりも、「弊社の契約先基金様には一切の取引がない」、という「最低限の責務」しか果たせなかった自分の無力さを痛感します。

もっと業界全体を守りたかった。くやしくて涙が出ます。
寺本名保美

(2012.02.24)



安全第一

昨年来証券会社や投資顧問会社の名前を騙って個人投資家に未公開株式などを売り付けていた詐欺がこのところ幾つか摘発されているようです。

それを受けた業界のコメントに、本来の株式や投資信託では投資家の資金が伸びんでんでいる一方で、こうした紛い物の商品にこれほど沢山のお金が流れてしまうのは、何故なのか考えなければいけない、という趣旨のものがありました。

金融商品というのは、不思議と危うい仕組みの方が魅力的に見えるらしい、というのは、我々も日々の業務の中で常々疑問に思っていることです。

腐りかけの肉が一番美味しい、と昔の食通は言ったらしいですが、現代では一発で食中毒です。

金融商品の食中毒にも皆様充分ご注意くださいませ。
寺本名保美

(2012.02.23)



一年越しのラブコール?

「東証2部26日連騰、ドル円13日連続下落-日経新聞」
だそうです。

今のような、過剰流動性の環境において、トレンドが出た市場には、後追い的な追随投資が出やすくなります。

日本株投資、という意味においては、まだまだ主要株式への資金流入は物足りないものも感じますが、日本株式の場合中小型市場の反発が市場全体の呼び水になる場合が多いので、今のトレンド形成には少し期待が膨らみます。

ギリシャのお祭りは一夜で終わってしまったものの、日本のお祭りはこれから?かもしれません。

確か昨年の今頃も、同じようなことを考えていたような気もしますが…
寺本名保美

(2012.02.22)



束の間の春。それでも春は春

ギリシャに1300億ユーロの第二次支援が決定されそうです。

とりあえず3月20日デフォルトへのカウントダウンが止まったことは、3月末の期末時価を意識する我々にとっては、なによりです。

そうはいっても、ギリシャ単体に対し1300億、どこどこに対し数千億、というように一国ずつ問題国処理をしていく方法論を今後とっていくとするなら、それは気が遠くなるような作業になります。

市場参加者の多くが期待するのは、一か国ずつではなく、EU全域をカバーする包括的な解決策への糸口を見出すことであって、ギリシャ一か国をどう救済するか、ではありません。

欧州全域からみれば、1300億(13兆円)もの資金を使って、また問題の先延ばしをしただけ、にすぎません。

今日の東京は寒気の合間を縫っての小春日和。
金融市場の束の間の春。それでもないよりはましです。
寺本名保美

(2012.02.21)



中国のギアチェンジ

このところの中国株式市場の値動きの重さをみていて、「新興国」としてのステージが終わりかけているように感じます。

伸び盛りの少青年期が過ぎ、働き盛りの成年期に入りつつあるのかもしれません。


放っておいても勝手に伸びる少年期と、伸びるための努力が必要な成年期とは、ギアの入れかたが異なります。

政府のギアチェンジが間違えば、思ったように進みません。

まだまだ成長余力は充分であることは認めますが、過去10年のような大躍進を期待するのは、止めた方がよさそうです。


まぁ日本の場合は、成年期から初老期へのギアチェンジに失敗しているのですが…
寺本名保美

(2012.02.20)



雇用統計と政権交代

このところ、米国の雇用統計が劇的に回復していることで、今年の大統領選の行方がわからなくなってきました。

昨年末までは、米国のエコノミストもファンドマネジャーもほとんどの人が、「今年は政権交代がある」ということを前提として、話をしていました。

株式の業種選択にもその方向性が出てきていましたし、クレジット投資などでは政権交代で金融規制法案が緩和されることを期待したポジションなどもみられていました。

雇用統計が改善して、市場が上昇したことはよいことですが、オバマさん退陣を目論んでいた人々にとっては、やや想定外の展開になりつつあります。

選挙イヤーの経済統計ほど、あてにならないものはない、と言ってしまえば元も子もないのですが。
寺本名保美

(2012.02.17)



良い本だと、私は思います

小野善康さんの「成熟社会の経済学」という新書を読みました。

この先生、何故かキワモノ扱いを受けているようですが、私にはとても共感することが多い本でした。


経済対策を考える際大切なのは、「長期右肩上がりの経済」における中短期的な不況ではなく、「成熟し成長しない経済」における長期的な不況、という視点であり、必要なことは効率化ではなく、需要の創出そのものである、という論調です。


経済学の難しいことは判りませんが、少なくてもこの20年間の日本の株式市場をみていれば、誰だって気が付きそうな問題です。


これ程当たり前の主張が、何故トンデモ経済学扱いされるのか、私には理解に苦しみます。


私が共感したのは、業界における我が身の評価がオーバーラップしたから、ではありませんので…念のため。

寺本名保美

(2012.02.16)



調達利息が1%以下ならば買えるものは沢山

久々に日本発で市場が良い方向に動きました。

日銀が物価を1%にします、と言ったからといって物価が上がる、ということを期待しているのではなく、むしろ物価が1%になるまではゼロ金利を継続します、といったことの方に意味があります。

円で資金調達をして、何かに投資しようとする投資家にとって、調達コストの先行きが読めるということは、非常に大切なことです。

日銀が当面のインフレターゲットを1%としたということは、そう簡単には1%に到達しそうもないほど現状のデフレ傾向が深刻であることを日銀自らが認めたともとれます。

円で資金調達をする側からみれば、ゼロ金利での資金調達ができる期間が想定よりも長くなっただけでなく、日銀が金融政策を引き締めに転換したとしても、短期金利は所詮1%程度までしか上りそうもない、ということも想定できます。

幾らデフレの日本でも、調達金利が1%以下であることが約束されているのであれば、株式でも不動産でも事業投資でも、4-5年のタイムスパーンでの投資対象はいくらでもあります。

と思ってくれる投資家が国内外共に増えることが、今回の日銀の最大の政策効果なのかもしれません。
寺本名保美

(2012.02.15)



中途半端だ

東京電力の公的管理。
議決権の3分の2だの3分の1だの、中途半端な議論が続いています。

中途半端な国有化、中途半端な公営企業、ほど使えないものはありません。

国が監視したら、東京電力の人達が「今まで以上に」一生懸命働くとは、思えません。今の危機的状況で働くべき人は働いているし、今働いていない人は監視しても働かない。

東証の時にも書きましたが、「官僚としての生真面目さもなく、事業者としてのアグレッシブさもない」ような巨大組織をこれ以上作ってはダメです。⇒ 過去の思いつき

国が完全国有化しないのは、国有化により賠償責任もまた、完全国有化されることを避けたいからですよね?

東京電力という民間企業はすでに資本の論理からは遠く掛け離れたところに行ってしまったので、あまり興味もないのですが、どうにも釈然としない経過を辿っています。
寺本名保美

(2012.02.14)



借金がなくなっても…

ベルギーにいる友人が、年金改革に反対する消防隊員が、議事堂に向かって抗議の放水をした、という記事を紹介してくれました。

欧州でのデモが、公務員中心であることが、日本からみると少し不思議です。

欧州で公務員比率が高いのは、民間での雇用が充分ではないことの裏返しです。

ベルギーやポルトガルの主要産業が何かと答えられる人は、日本にもアメリカにもほとんどいないでしょう。

この状況が解決しない限り、目先の借金を棒引きにしたとしても、何年が後にはまた同じ状況を繰り返すだけです。

どうやって借金を減らすか、の次には、どうやって食べていくのか?という更に厄介な問いが欧州各国には残されています。
寺本名保美

(2012.02.13)



算数があわない

基礎年金が最低基準の年間77万円に満たない人に対し、月額6000円を支給するという民主党案。

民主党の主張する最低基礎年金の金額を強引にカバーする手法としては、ありえなくもないですが、これを消費税の引き上げとパッケージにするのは、どうしても算数があいません。

月額6000円ということは、消費税を5%引き上げたとして、月額12万円分の消費に対する負担増を、カバーする金額となります。

月額6万4千円の基礎年金に届かない人に対し、月額12万円の消費相当の給付をする、というのはありえません。

消費税に関しては、変にごまかすことなく、生鮮食料品と家賃は無税、といった切り口で、できるだけシンプルな仕組みにした方がよいのではないかと強く思います。
寺本名保美

(2012.02.10)



都心のテナント事情

先ほど三鬼商事からでた、「1月の東京(都心5区)のオフィスビル市況」をみて、暗くなりました。

空室率・賃料・空室面積のどれをとっても、さらに既存ビル、新築ビル問わず、ほぼ過去最悪を更新か、それに並ぶ水準です。

不動産の賃料は、その「場」を使って、ビジネスを行い、収益を上げるための、「場代」です。

従って、「場」が収益の源泉としての力があれば賃料は上がり、収益の源泉としての力を失えば下がります。

東京都心部の賃料が1990年の統計来で過去最低ということは、この「場」の持つ潜在的な収益力も過去最低ということになります。

もちろん、その間のインフレ率の問題もありますので単純に90年代と比較することは意味がありませんが、それでも2002年2003年の直近の最悪期と比べても悪い、ということは深刻です。

この現象が、企業の潜在収益力の低下だけの影響なのか、東京の一極集中が緩みつつある影響なのか、IT技術の進展により一単位当たりの利益を上げるための必要床面積が減少したためなのかは、まだよくわかりません。

しばらくこの数値を追いかけてみようと思っています。
寺本名保美

(2012.02.09)



平安祈願

京都から大阪にまわる最中、時間があったので平安神宮に行ってきました。

世界の平安、市場の平安、そして年金スポンサーの皆様の心の平安を祈願してきました…
ぽかぽかの昨日から一転小雪の舞う京都です。
寺本名保美

(2012.02.08)



来年度のリスク

来年度の資産運用におけるリスクシナリオ。

1つは消費税が流れること。

もう1つは戦争。
消費税が流れるシナリオは、もしかすると期中のリスクで来年度ではないかもしれず、世界のどこかで起きるかもしれない戦争は、起きるタイミング次第ではあるものの、一概にマイナスとは言い切れず。

こういう話がないかぎり、来年度もまた5月高値、中ダレ、年末復活を繰り返すのかもしれません。

こういう話がないかぎり、という前置きをした時点で、市場見通しなど意味がなくなってしまいますが。
寺本名保美

(2012.02.07)



本当に儲かるの?

Facebook の大型IPOが話題になっています。

世の中では、FacebookとGoogleによる水面下のバトルが激しさを増しているとも言われています。

話題のFacebookもGoogle+も、お遊びでは使っていますが、そこに何等かのフィーを落とした経験はなく、そこに自動表示される「広告らしきもの」を意識してみたこともありません。

ちなみに、周りにいる事業会社の方と話しても、これらをマーケッティングツールとして真剣に利用しているという話も、ほとんど聞こえて来ず、世間で言われているような、莫大な広告効果、というものが全く実感できずにいます。

たまたま私が、そういったことに鈍いだけならよいのですが、SNSのビジネス効果がどうも過大評価されているような気がしてしかたありません。

単に時代に乗り遅れているいる人間のつぶやきです。
寺本名保美

(2012.02.06)



いっそ国有化?

東証というものが、どうも信用できずにいます。

公器ではあるものの、公共機関ではなく、民間であるものの、営利団体とも言い難い。

言い換えるなら、官僚としての生真面目さもなく、事業者としてのアグレッシブさもない、非常に中途半端な組織に見えてしまうのです。

歴史的に証券市場が国家的な社会インフラとして認知されにくい日本において、証券取引所のステイタスは本来の姿よりずっと低く放置されてきました。

今、システムトラブルを繰り返す情けない東証は日本における証券市場のステイタスの低さそのものです。
中途半端な上場などやめて、国のインフラとして、いっそのこと国有化してしまった方がよいのではないかとも思います。

寺本名保美

(2012.02.03)



円高はどこへいった!?

毎年、この時期にだけ買うフランスの高級チョコレート。

去年の注文履歴をチェックしてみたところ、値段は全く同じ。
ユーロ円が3割下がっているというのに、売値は同じ!

おかしい。
絶対におかしい!
これは、チョコレートだけの現象なのか?
他の輸入品も同じなのか?

海外ブランドは日本で売る気がないのか?
それでも買ってしまう私が馬鹿なのか?

はい。馬鹿です…寺本名保美

(2012.02.02)



何を守るのか

四半期報告が始まっています。

国内外問わず、運用機関の迷走が続いています。

迷走しているのはパフォーマンスではなく、運用機関としての未来図に揺らぎがみられます。

パフォーマンスが悪いから組織が揺らぐのか、組織が揺らぐからパフォーマンスが悪いのか。

市場参加者の顔ぶれも、リスク許容度も、ルールも変わる中で、運用機関が何かを守ろうとすればするほど、現実との乖離が広がります。

守りたいのは、シェアなのか、これまで築いてきたブランドなのか、人材という財産なのか、顧客との信頼関係か。

動乱の市場の中、守るものを間違えると淘汰を早めるだけです。
寺本名保美

(2012.02.01)


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