株式会社 トータルアセットデザイン


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米国の仲間内資本主義の罠

一般的にクローニーキャピタリズム(仲間内資本主義)という言葉は、 財閥など一部の限られた資本家によって一国の市場経済が支配され、 自由な経済活動が阻害されている状況をいう。 これはいわゆる経済のグローバル化において最も初めに排除すべき構造であると認識されている。 しかし今の米国の混乱を見ていると、グローバル経済の権化と自他ともに認めてきた米国もまた、 所詮仲間内資本主義の罠から抜け出せないでいるように思えてならない。 以前から、当該企業の会計事務所の担当者が受持ち企業のCFO(財務担当責任者)に転職したり、 外部取締役が上場企業同士で襷掛けにされていたり、 いわゆる経営プロフェッショナルが同業他社のCEOを渡り歩いたり、 といった米国独自のクローニーキャピタリズムを問題視する声は出ていた。 但しこういった行為があまり大きく取り上げられなかった背景には、 企業を真に客観的に評価し、問題点を指摘すべき立場としての株主、 その代表である機関投資家、そして投資判断を補佐すべきアナリスト、 といった存在が監視役として正常な市場メカニズムを機能させていると 信じられてきたからである。 しかしアナリストやファンドマネージャーは果たして本当に市場浄化機能を果たしてきたのだろうか?

現在の米国の不幸は、企業経営、企業会計、証券投資、の3分野での行動規範 (スタンダード)が全て株主価値の最大化という目標で一致してしまっていたことにある。 本来互いに牽制しあうはずの3者が、「企業経営の目的は株主価値の極大化にある」という、 非常に証券市場にバイアスのかかった理屈を己のスタンダードと認定したことで、 米国経済全体をマニピュレーション(恣意的に誘導された市場)に引き込む結果となった。

米国は多様な国である。その多様さがゆえに、 ある種ステレオタイプ的な行動規範を非常に重視する国民でもある。 企業経営には経営学の、企業会計には会計学の、 証券投資には投資理論のスタンダードが存在し、 それぞれの分野のプロフェッショナルは皆同じ理論と精神を共有している。 だからこそ、米国には経営プロフェッショナルが存在し得るし、 会計事務所が破綻しても会計士はすぐ別の事務所で働くことが可能となる。 企業間の合併・買収が頻繁に行われるのも企業経営に対する目標と方法論が 共有化されているからに他ならない。 それぞれが自らの分野のプロフェッショナルとして強固な社会的使命を追求することで、 米国社会の構造的バランスは保たれてきたといえる。

しかし経営・会計・投資という 3分野で「株主価値の極大化」という概念が業種を超えて共有化されたことで、 米国経済は結局市場のダイナミズムと自浄作用を失った。 自ら正しいと信じるスタンダードを共有している人々にとって、 互いを批判することは自らの行動をも批判することとなる。 結果、どうしても判断が甘くなるだけでなく、 問題の所在を認識することすらむずかしくなる。 健全な市場を維持するためのバランサーであるアナリスト自身に客観性をもとめることができなければ、 市場の浄化は行われない。 現在の米国に求められていることは、経営者、会計事務所、 そして投資家それぞれがいかに自らの役割に忠実な自立した視点を回復できるかにある。 現状の株主価値信奉を維持したまま法整備を進めたところで、 所詮仲間内資本主義から抜け出すことはできないし、 市場の信用を取り戻すことも難しいと考える。(寺本)

(2002/07/31)