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米国の年金債務問題

現在米国企業で問題となっている年金債務問題と呼ばれていることには大きく分けて以下の 3点に集約される。まず第一は債務の計算の前提である長期金利の低下。 第二は資産の期待運用収益率の根拠。第三は資産価値の急落による積立不足金の発生。

日本で取り上げられるのは主に3番目の株価急落に伴う資産減の話題だか、 これ自体が年金債務に与える影響は一時的であり、 米国社会全体がイラク戦後の株価の急回復をあきらめていない現状では、 日本で考えているほど大きな問題とはとらえられていない。

むしろ年金財政上の負担増として重視されているのは、年金負債の割引率の低下である。 一般に負債の割引率が1%変動すると年金債務額が約20%変動するといわれている。 負債の割引率の根拠である米国の長期金利は代表的な指標である 10年国債金利でみてみると90年代前半の7%台、90年代後半の6%台、と徐々に低下し、 2000年の年間平均の6%から2002年4.6%そして現状3%台と、戦後例を見ない水準にまで下がっている。 さらに現在のデフレ環境が継続するようであれば、 今後とも長期金利は当面低下し続けるのではないかという不安心理もかさなり、 経営における年金負債の重圧感が高まっている。

一方資産サイドの期待収益率の測定根拠についての議論は、 単に現在の年金財政に与える影響だけがテーマではなく、 年金利益が経営者の報酬とリンクしているという構造問題とあわせて、 複雑な問題提起をすることとなった。 年金資産から計上される運用利回りは年金負債から差し引かれる。 しかし年間の資産運用利回りは1年経ってみないとわからないため、 計算上「期待運用利回り」という数値が使われる。 この数値は「資産が投資された平均収益率を反映しているもの」、 と定義されており米国の多くの企業は8~9%台の数値で計算している。 そもそもこの長期的に 9%の運用利回りをあげるということが今の米国経済環境において妥当かどうか、 ということが第一義的なテーマである。 基本となる短期金利が低下し、 さらに企業収益見通しが下方修正されていくなか株式市場の潜在的な成長率にも見直しがかかり、 一般的には約1%程度期待利回りが引き下げられるのではないかと見られている。 期待利回りにからむもう一つの問題は、業績リンク型の役員報酬制度に この年金制度が不当に利用されているのではないかという指摘である。 期待運用利回りと現実の運用収益の差は前述の負債コストと合算しある一定以上の 乖離がなければ、企業会計に計上する必要はない。2001年、米国の株式市場は年間で 10%以上下落した。 もちろん全額株式で運用しているわけではないので、 実際の運用利回りは株式市場ほど悪化していたわけではないが、 少なくともプラスの9%には程遠いものであった。 しかし年金費用に計上するほどの誤差が出なかったことから実際の運用損失は計上されず、 結果として企業業績が底上げされたことになった。 結局2002年度ではさらなる利差損が発生し費用計上したため、 時間のずれがあったにしろ、企業業績へは年金費用は正当に反映されたことになる。 しかし業績連動型の報酬体系を取っている経営者が2001年度に得た報酬は、 2002年に業績が悪化したとしても返還されるわけではない。 2001年に経営者が得た報酬は正当なものであったのか? 意図的に高い期待収益率を設定し年金費用を過少に見積もっていなかったか? という議論が今多くの企業を対象に行われている。 ストックオプション問題と同様に、米国の経営者に対する報酬体系が、 一歩間違うと経営の健全性を阻害する要因になる可能性があることを、 年金問題も又示唆している。(寺本)

(2003/5/1)