株式会社 トータルアセットデザイン


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米国の住宅抵当金庫の恐怖

米国には、ファニーメイ(連邦抵当金庫)とフレディマック(連邦住宅金融抵当金庫)という、 巨大な住宅金融会社がある。これらの会社の創設は1930年代の大恐慌に遡り、 当時の大統領ルーズベルトが、 融資余力のなくなった民間金融機関から住宅債権を買い取るために創設した。 創設来、この2社は民間から買い取った住宅債権を証券化し保証をつけて投資家に売却する、 という業務に特化してきた。 2社は住宅抵当金融以外の業務は法的に認められていない。 この見返りとして税法上の優遇措置とあわせ、 総額22億5千万ドルの緊急融資枠が米国財務省に設定されている。 この政府の融資枠の存在を市場では「暗黙の政府保証」と呼ぶ人もいる。 しかし実体は、両社とも1968年来完全民営化されており、 現在はニューユーク証券取引所に上場する株式会社である。 証券化された住宅債権をMBSというが、 この2社のMBSの発行残高は1兆ドルを越しており、 その総額はなんと米国の財務省証券の発行残高を凌駕するまでになった。 負債総額1兆ドルに対し22億ドルという政府保証枠はなんとも中途半端な額であるものの、 この政府保証枠の存在こそが格付をAAAに維持させる源泉であり、 アジアの中央銀行が外貨準備資産で購入しているという噂がでてくる所以でもある。 この政府保証をめぐっては定期的に撤廃を含めた見直し議論が起きるものの、 これまでは実現されることはなく、 両社の発行するMBSは米国国債とあまり変わらない利回りで取引されてきた。

ところが、ここに来て、無視するには大きすぎる懸念が、 市場を揺るがせ始めている。 問題の第一は、急激に拡大しすぎた両社の負債と資産に関するリスク管理上の指摘である。 この数年続いている、米国の住宅購入ブームと急激な金利低下による借り換えが重なって、 米国の住宅ローン残高は急激に膨張し、2003年は前年比+40%増の 3兆7千億ドルに達すると見込まれている。 こうした市場の急拡大に伴って両社の負債総額は10年前の8倍にまで拡大し、 この巨大なバランスシートをヘッジするためのデリバティブ残高は両社とも約7000億ドル、 およそ米国の大手銀行に匹敵するまでになっている。 今年の3月セントルイス州連銀総裁がこの2社の資本基盤に疑問を投げかけたのを皮切りに、 4月にはIMFとFRBそれぞれが金融システムを揺るがす危険があると、 両社を名指しで警告した。 セントルイス連銀にいたっては、 「暗黙の政府保証」がこれらの住宅金融公社に無制限な資産拡大を許すモラルハザードの元凶であるとまで言っている。 日本円にして約80兆円ものデリバティブ残高を管理するために当然 2社とも市場最強といわれるリスク管理チームを抱えている。 しかし構造上、急激な金利低下はヘッジ損、急激な金利上昇は資産の劣化、 とどちらの方向に対しても急激な金利変化は両社にとって好ましくない。 両社ともこうした懸念を打ち消すべくリスク管理体制の強化を図り、 ようやく市場も落ち着きを取り戻しつつあったところに起きたのが、 フレディマックの会計問題をめぐる経営人の退陣であり、 直近のファニーメイの決算数値の妥当性に対する疑問である。 共通することはデリバティブを使ったバランスシート調整の是非であり、 フレディマックは本来あるべき利益を計上していなかった、 ファニーメイはデリバティブ勘定を入れると資産が大幅に劣化するとの指摘である。 これに証拠隠滅やインサイダー取引疑惑、会計事務所の変更問題、 と会計疑惑の定番メニューが加わり、状況は緊迫している …はずだが表面的には不思議と平静を保っている。 「To big To fail」という言葉が公然とささやかれる米国の住宅金融市場について考えると、 グリーンスパン議長は夜も眠れない…かもしれない。(寺本)

(2003/07/01)